村上春樹 遠い太鼓 [日記(2007)]
1986年~1989年の30代の最後の3年間を外国(主にギリシャ、イタリア)で暮らしたエッセイで、作者の云う「旅行のスケッチ」あたる。「村上朝日堂」ほどの脱線はないが、何処を切っても村上春樹で(金太郎飴の悪口ではなく)洒脱とユーモアは「やがて悲しき外国語」に近い。酒、料理、音楽、自動車、ジョギングと春樹ファンにはおなじみの話題が一通り揃っている。
旅行についてのエッセイであり、作者の云う「僕自身と時間と場所のバランス」の物語である。このバランスの揺れる(崩れる)振幅がこのエッセーを成り立たせている。
この外国暮らしの3年間に「ノルウェイの森」「ダン・スダンス・ダンス」が書かれている。冬のギリシャの孤島で、寒さに震えながら「ダン・スダンス・ダンス」のハワイの場面を書いている作者の舞台裏をかいま見ることとなる。あまり多くは語られていないが、作者は日本を離れることで自身の回復を図ろうとし、ふたつの作品を完成させたのだろう。
まあまあ→☆☆☆★★
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