SSブログ

帚木蓬生 ヒトラーの防具 [日記(2007)]

ヒトラーの防具〈上〉

ヒトラーの防具〈上〉

  • 作者: 帚木 蓬生
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1999/04
  • メディア: 文庫


 旧東ベルリンの大学の倉庫で剣道の防具が発見される。防具にはには「贈ヒットラー閣下」と記され、同時に20冊に近いノートも発見される。ノートから、防具渡独の経緯とそれを運んだ青年将校が見た、第二次世界大戦前夜のドイツと日本の物語が始まる。香田ミツヒコ陸軍中尉(後大尉)、ドイツ人を父に持つ駐ドイツ大使館付武官補佐官。物語は香田陸軍中尉の手記を中心に、1937年から1945年のベルリンを舞台に進行する。ナチスの独走に日本が巻き込まれることを防ごうと苦慮する駐独大使・東郷茂徳、ナチ崇拝者で日独伊三国同盟の実現を推進する武官(後独大使)・大島、果ては宣伝相ゲッペルス、総統ヒットラーまで登場する。創作の部分では、香田の兄でミュンヘンの精神科医・雅彦、香田が下宿する大家でベルリンフィルのオーボエ奏者・ルントシュテット夫妻、ユダヤ排斥の中でルントシュテットが匿い、後に香田が匿うこととなるユダヤ人娘・ヒルデなどプロットに必要な人物がもれなく配される。
 物語は、ドイツのポーランド侵攻、純血保護法、水晶の夜事件、独ソ戦争、ベルリン空襲など歴史年表通りに進行し、ユダヤ人排斥とホロコースト、ベルリンの空爆には創作上の人物の悲劇が重ねられ、政治史的事実は、駐独大使や武官の言動によって語られる。この辺りは歴史を後世から裁断し、独裁と自由、ファナティシズムとヒューマニズムの二元論で片づけている感が否めない。

 歴史小説を読む楽しみは、作者が登場人物をどう創作し、歴史的事実と如何に関わらせるか、事実と事実の間隙を想像でどの様に埋めるかを読む楽しみである。せっかくだから、光彦がベルリンに赴任する1937年~陥落する1945年を中心に年表を作ってみた。三国同盟の独側の外務大臣リッペンドロップはニュルンベルク裁判で処刑された最初の戦争犯罪者となり、東郷は1950年に病没、島田は特赦を受けて出獄し1975年まで生き延びた事実も分かって興味深い。東郷茂徳の事績を見ると娘いせが結婚した相手が本庄文彦であり、香田光彦と名前の類似性があったり、その孫が『国家の罠』(佐藤優)の東郷和彦であったり、興味は尽きない。

緑陰図書としてはお勧め →☆☆☆★★


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0