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半藤一利 漱石先生ぞな、もし [日記(2007)]

漱石先生ぞな、もし (文春文庫)

漱石先生ぞな、もし (文春文庫)

  • 作者: 半藤 一利
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1996/03
  • メディア: 文庫
 半藤一利といえば元文藝春秋編集長にして昭和史研究家である。漱石の外孫を伴侶とした(漱石は義理の祖父に当たる)著者の蘊蓄を傾けた軽妙洒脱な漱石論である。義父から預かった明治40年版の「坊ちゃん」を開くと、多数の書き込みがあり、書き込みの主はなんと小説のモデルとなった、主人公の「坊ちゃん」であり、「赤シャツ」であったという仰天の事実から半藤版「漱石論」は始まる。漱石の胃腸病の原因をグルメ(単なる食いしん坊)に求めたり、有名なロンドンでの発狂の噂真相解明など、硬軟とりまぜたエッセイは興味が尽きない。

 とりわけ感心したのが第7話『銀杏返しのおんなたち』。『銀杏返し』とは、5千円札の主・樋口一葉の髪型のことである。この銀杏返しが『それから』で巧みに使われているとのこと(p.192)。ご存じのように、『それから』は人妻三千代と代助の恋を描いた不倫小説のはしりである。
如何いう風に巧みかというと(著者によると)、

・(お互いが独身であった頃)未だ18歳であった菅沼三千代は銀杏返しを結っていた。その頃大学生であった代助は、銀杏返しをほめたことがある。三千代は以後決して銀杏返しを結わなかった。
・5年後再会を果たし、代助の自宅で昔話をした時、平岡三千代の髪型は銀杏返しであった。三千代は、5年前のと同じ銀杏返しで再会に臨んだ。

三千代は『銀杏返し』の意匠で平岡三千代から菅沼三千代へいとも簡単に時空を制御してしまう。
・・・以下引用・・・
「こう眺めてくると、三千代という女性がその表面的なさびしげな姿とは裏腹に、ただものではないような気がしてくる。
きまって銀杏返しに結った姿を代助にみせるのは、決して気まぐれなんかではない。
とっておきのイメージ再現で、男に惚れさせる、そんな術を心得た、とはいわないまでも、代助との間を菅沼三千代へ戻す、すなわちはるか昔からやり直したいという願いを、彼女のほうが胸の底の底にひそめていたのじゃあるまいか。
・・・
代助は、ついに三千代に愛野告白をするが、
・・・
「『仕様がない。覚悟を極めましょう。』
代助は背中から水を被ったように震えた。」

まことに、女は恐い。」

ということとなる。

漱石なぞ高校生以来読んだことがないが、読んでみようかなと思わせる一冊。

9月6日の東京出張の往復の社内で読んだ。台風9号の影響で帰りの新幹線が止まり、大阪にたどり着いたのは翌日の15時。列車の遅れも、本書のおかげで気にならずに過ごせた →☆☆☆☆


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