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アマデウス (1984英) [日記(2008)]

アマデウス [DVD]

 モーツアルトの死の謎を描いたミステリーです。モーツアルトの楽曲がたくさん出てきて、オペラなど聴いたこともない私でも1枚買ってみようかなと思わせる映画です。

 映画は、オーストリア宮廷宮廷作曲家、今は老いた元宮廷作曲家サリエリの自殺未遂から幕が開きます。サリエリは精神病院の様な所に収容され、告解に訪れた神父にモーツアルトの回想を語りだします。何と、モーツアルトを殺したのはサリエリ自信だと云うのです。
 サリエリがモーツアルトと出会う場面は、正直ショックです。モーツアルトは場所柄もわきまえず、けたたましい笑い声と下品な言葉で女性を追い回します。これがモーツアルト?美しいシンフォニーからは想像できない姿です。サリエリならずとも眉をしかめたくなります。このモーツアルトは戯曲家ピーター・シェーファーの解釈なのか、監督ミロス・フォアマンの創造なのか分かりませんが、トム・ハリスの演技力もあずかって強烈です。冒頭にこの出会いをもってくることによって『アマデウス』のモーツアルトとサリエリの関係が決定され、この映画の全体像が予告されます。うまいと思います。誰でも知っていモーツアルトがかくも奇矯に描かれ、誰もが知らない(不通の人は知りませんよね)サリエリが知的で常識的な人物として登場するわけです。このモーツアルト像に関してはファンから抗議が殺到したそうです。まぁ分からないこともないのですが、作家と作品は別物ですし、これはひとつの解釈ですから。でも、トム・ハルスが演じたモーツアルトは、たぶんモーツアルト像の典型ひとつとなると思います。

 モーツアルトのフルネームはヴォルフガング・アマデウス・モーツアルトと云い、ミドルネームのアマデウスは『神に愛される』という意味だそうです。夫の就職の推薦をもらうためにコンスタンツェはサリエリを訪ね楽譜を見てもらいます。サリエリはあまりの完璧さに驚きモーツアルトの才能に嫉妬し、キリスト像の前で独白します。

『あなたは神の賛美を歌う役目に、好色で下劣で幼稚なあの若造を選んだ。そして私には、彼の天分を見抜く能力だけ。あなたは不公平だ。理不尽で、冷酷だ。あなたの思いどうりにはさせない。あなたの創造物であるあいつを傷つけ打ち砕く。あなたの化身であるあいつを滅ぼす!』

そして、キリスト像を暖炉の火に投げ込みます。この映画のクライマックスかも知れません。神は何故あの様な無分別で下品な小僧モーツアルトに才能を与え、自分(サリエリ)にはそのカケラさえ与えてくれないのか?これは、滑稽ですが根元的な問いではないでしょうか。ここからサリエリの殺意が芽生えるのです。『神が愛でし』モーツアルトを殺すことによって、不公平な神に復讐しようというのですから、凄いです。
 遠藤周作の『沈黙』という小説を思い出します。幕府のキリスト教徒弾圧を前に神は何故『沈黙』を守るのかと問いかけ、キリスト教を放教転向した神父と似ています。

映画の最後で、モーツアルトの回想を神父に語り終えたサリエリは独白します。

『あんた(神父)の慈悲深き神は、愛する者の命を奪い、凡庸な人間にはわずかな栄光も与えはしなかった。・・・自分の存在が薄れてゆき。私の音楽も忘れられていく。今ではもう演奏もされない。(神父よ)あんたも同じだよ。この世の凡庸なる者の一人。私はその頂点に立つ凡庸なる者の守り神だ。凡庸なる人々よ、罪を許そう、罪を許そう、君たちの罪を許そう』

モーツアルトの『高笑い』で幕を閉じます。世の中は、一人のモーツアルトと多数のサリエリから成り立っている様です。

サリエリに同情し哀れになるほどトム・ハルスの演技は特筆ものです。彼はこの映画でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされますが、惜しくも逃しています。受賞はサリエリを演じたF・マーリー・エイブラハムでした。個人的にはトム・ハルスも捨てがたいと思うのですが、如何なものでしょう。

 モーツアルトは35歳で死んでいます。共同墓地に葬られたため墓も不明、死因も特定されず(推定される病名は何と10種類もある)、本人が「毒殺される」「レクイエムはやがて死ぬ自分の為に書いた」などと云うものですから、「モーツアルト毒殺説」は昔からあったようです。犯人は、サリエリ説、フリーメーソン説、妻コンスタンツェの不倫相手説などなど。サリエリは生存中から犯人の噂を立てられていたようですが、今では濡れ衣だったという説が有力らしいのです。あのモーツアルトにこうしたミステリーがあること自体楽しいですね。「我が墓をあばく者は呪われる」?とか何とか云って、未だ正体不明のシェイクスピアみたいです(シェイクスピア=フランシスコ・ベーコン説もある)。
 このサリエリ説を下敷きに戯曲を書いた人(ピーター・シェファー)がいて、映画『アマデウス』によって映像化されたいうことです。この戯曲は有名らしく、ロンドンやニューヨークで上演され、日本でも松本幸四郎と江守徹によって何と400回上演されているようです。
オーストリアの町並みを背景に奏でられるモーツアルト、劇中劇の『フィガロ』『ドン・ジョバンニ』などのオペラ、誰がモーツアルトを殺したかは別にして、映画『アマデウス』はお気に入りの1本です。

監督:ミロス・フォアマン
原作・脚本:ピーター・シェーファー
音楽:サー・ネヴィル・マリナー

出演
サリエリ:F・マーリー・エイブラハム
モーツァル:トム・ハルス
コンスタンツェ:エリザベス・ベリッジ

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コメント 3

Betty

わたしも、お気に入りの1本です☆サントラも購入しまいました。
トム・ハルスのモーツァルトは素晴らしい演技だと思います。
F・マーリー・エイブラハムとのダブル受賞では無かったことが残念です。
音楽・ムード・衣装・舞台・そして演技すべてがパーフェクトです☆


by Betty (2008-04-14 23:38) 

管理人

F・マーリー・エイブラハムは『薔薇の名前』で異端審問官を演じてまして、最期は崖から落ちて拷問器具に刺し貫かれて死ぬという悪役です。この映画も面白いです。原作は難解というかミステリーとしては楽しめません。
by 管理人 (2008-04-15 10:28) 

Betty

こんばんは!
あら。。。来週あたりから気合を入れて『薔薇の名前』読もうと思ってましたよ☆
このミス過去20年版で洋書1位に選ばれた評価の高い1冊のようです
確かに原作は難解そうですね~><;
ますます気合を入れてチャレンジしてみます!!

映画も評価が高いですね~合わせて楽しみたいと思います♪
by Betty (2008-04-15 22:16) 

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