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杉山隆男 兵士を追え [日記(2008)]


兵士を追え (小学館文庫 す 7-3)

兵士を追え (小学館文庫 す 7-3)

  • 作者: 杉山 隆男
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2007/11/06
  • メディア: 文庫


 『兵士に聞け』『兵士を見よ』に続く3部作です。兵士とは自衛官です。それぞれ主に陸上自衛隊、航空自衛隊の体験ルポルタージュで、自衛隊を『兵士』の目線で追い、この憲法の鬼子を正当な兵士と位置づけた作品です(政治的な意図は全く感じません)。『兵士を追え』では、殆ど知られることのなかった海上自衛隊の潜水艦がルポされます。著者は新聞社のIT化を書いた『メディアの興亡』で1986年に大宅ノンフィクション賞を受賞しています。これも賞の名に値する重厚で精緻なルポです。読売新聞の記者であった著者の書くこれらのノンフィクションは、個人的には『ルポルタージュ』だと思います。著者の視点で対象を分析しその姿を描くというより、対象を見、対象に聞き、著者が何を感じたかを生のまま書くというスタイルを取っています。ジャンルの定義付けはともかくとして、著者のこのスタイルは新聞の『調査報道』になるのでしょうか。文章も平易で読み易くジャーナリストの文章かなと思います。
 本書は4部構成です。
第一部 潜航せよ・・・潜水艦 なつしお
第二部 海上警備行動発令・・・哨戒機P3Cオライオン
第三部 対潜水艦戦
第四部 どんがめ群像

第一部 潜航せよ
・艦長が一番
 艦長はその船の長で一番偉いわけですが、その上に隊指令がいます。面白いのは、この隊指令が潜水艦に乗り込んできても、艦長室と艦長席は空け渡さない(指揮権も!)というのです。海上幕僚長、防衛庁長官、首相が来ても潜水艦では艦長が一番偉く、コーヒーも最初に艦長に注がれるというのです。普通の艦船では、隊指令が来ると指揮権も移るそうですが、潜水艦では艦長が一番偉いのだそうです。伝統とかそういったものではなく、潜水艦は隊を組まず、味方にさえその行動を明かさず単独で行動し敵を狩るという『個艦主義』に根ざしている、というものです。面白いですね。『鋼の柩』という呼び方がありますが、潜水艦ほど艦長を頂点とした組織が運命共同体として戦う孤独な軍隊はないのでしょう。だから、潜水艦の中では艦長が一番偉いのです。

・音の狩人
 潜水艦を扱った映画や小説を読む楽しみは、閉じられた空間で音を頼りに騙し騙される想像力を刺激する戦いにあります。これは第二次世界大戦の頃の話で、イージス艦に象徴される今の潜水艦では無い話と思っていましたが、潜水艦に限っては状況は似たようなものだそうです。ソナーの反射を立体的に映し出す装置は出来たものの、敵を探し敵を追いつめるセンサーは今も『音』だそうです。ドアノブを回す音、トイレの水を流す音が海中に漏れ出すこと防ぐ技術は未だ無く、音を立てない、敵の音を聞き分けることが基本となっているのだそうで、これも意外です。もう一つ意外だったことは、潜水艦の武器は今も魚雷だけだということです。もちろん戦略核を積んだ潜水艦もありますが外国の話です。これも意外でした。著者はこう書きます、

『海の中では、コンピュータやハイテク兵器の介在を許さない戦いが未だに存在するのである。かつて武器らしい武器ひとつ持っていなかった人類が、己の肉体と研ぎ澄ました五感だけをたよりに、獣を相手に、狙い、待ち伏せ、追いつめた「狩り」。それと同じ、どこまでも人間臭い、それだけに人の体内に秘められた原始の感覚と勇気と狡智が試される戦いである。』

だから、潜水艦は面白いと思います。

第四部 どんがめ群像
『どんがめ(鈍亀)』とは潜水艦乗組員の自嘲を込めた愛称です。様々な『どんがめ』達の来歴と今を、ユーモラスに愛情を持って紹介する本編は、シリーズ3部作の最後を飾るにふさわしいものでしょう。航海、武器、機関と専門分野に細分化された護衛艦とは異なり、全乗組員が千を超えるバブルの場所と機能をマスターし、当直に当たってはソナー員からコックまで全員平等に船の安全を確保する潜水艦『一家』の連帯感は、現代の私たちが遙か昔に置き忘れてきたものを思い出させます。『あとがき』で著者は

『私自身の記憶に眠る「戦後」がまだそこの息づいている・・・』

と書いていますが、同感です。「戦後」を「昭和」と置き換えてもいいでしょうね。

てつのくじら館 →http://www.jmsdf-kure-museum.jp/

潜水艦を題材とした小説、映画
・レッドオクトーバーを追え
・吉村 昭 深海の使者
・終戦のローレライ
・眼下の敵
・レッドオクトーバーを追え
Uボート

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