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松井今朝子 銀座開化おもかげ草紙 [日記(2008)]


銀座開化おもかげ草紙 (新潮文庫 ま 32-1)

銀座開化おもかげ草紙 (新潮文庫 ま 32-1)

  • 作者: 松井 今朝子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2007/09/28
  • メディア: 文庫


 松井今朝子は2冊ほど読みましたが、いずれも、うまい!と思わず呟く程読みごたえのあるものでした。改題される前が『銀座開化事件帳』ですから、中身は想像つきますね。
 この手の物語としては王道をいっています。官軍の不逞の輩を切り、北海道へ逃げた後東京に舞い戻った元旗本の次男坊・久保田宗八郎を主人公に、旧大垣藩主のご落胤で輸入雑貨商を営む若様・戸田三郎四郎、切支丹で耶蘇教書肆を営む元八丁堀与力・原胤昭、元薩摩藩士の警視庁二等巡査・市来節蔵が脇を固め、明治初年の銀座を舞台に繰り広げる『事件帳』です。物語に花を添えるのが、宗八郎の三つ年上の『立ち姿』の美しい姉さん女房・比呂、宗八郎がほのかに想う元御殿師の娘・綾。
 登場人物にすべて『元』が付くところが本書のミソでしょう。明治も始まってまだ間もない頃(明治7年)の物語ですから、それぞれ幕末の過去を引きずっていることは当然です。この旧時代が良しにつけ悪しきにつけ顔を出し、事件を生みます。『事件帳』と云う程のミステリー仕立てでは無く、時代の過渡期の世相と混乱を『事件』として切り取ってくる作者の腕は冴えます。

 関川夏央の解説に沿って調べると、原胤昭の耶蘇教書肆『十字屋』は今も銀座・十字屋として現存するのですね。原胤昭も実在の人物で本書の通り明治7年にクリスマスを祝っています。社会事業家で日本最初のキリスト教誨師として長命な人物とのことです。京都のJEUGIAもこここから派生していると思うと親近感が湧きます。若様こと戸田三郎四郎氏益(戸田欽堂)も実在のキリスト者で、アメリカから帰朝の後輸入雑貨店『九星堂』を開き、原胤昭と『十字屋』を創業しています。自由民権運動の拠点・幸福安全社も実在、高島嘉右衛門(有名な高島易断の祖)も小説通りです。というか、こうした事実から『銀座開化おもかげ草紙』が紡がれた訳です。

この『銀座開化おもかげ草紙』の前に『幕末あどれさん』、後ろに『果ての花火―銀座開化おもかげ草紙』があり3部作の様です。
今井今朝子としては、長編に分があります →★★★
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