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藤沢周平 回天の門 [日記(2009)]

回天の門 (文春文庫)

回天の門 (文春文庫)

  • 作者: 藤沢 周平
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1986/10
  • メディア: 文庫


 清河八郎の生涯を描いた幕末歴史ものです。藤沢周平には、架空の『海坂藩』に代表される武家物(市井物もあり)と、『義民が駆ける』などの史実を扱った歴史物があり、本書は後者に属します。
 清河八郎というと、新撰組草創期に登場する『策士』としてイメージが強い様です。将軍徳川家茂上洛の護衛として、幕府を説いて尊攘志士を集めて浪士組を結成し、京都に着くや否や尊皇攘夷に衣替えを図ると云う『他人の褌』的策動があった為です。この浪士組の京都残留組が後の新撰組へと発展し、新撰組を語る場合、清河八郎は常に『策士』として描かれます。

 この時代の志士の多くがそうであったように、清河八郎こと斉藤元司は庄内藩清川村の郷士の出です。藩から十一人扶持を受ける造り酒屋の息子です。江戸末期、地方の経済を担った豪農が力を付けて知識階級として台頭し、この層から多くの志士が出ています。坂本竜馬、・・・近藤勇もそうです(近藤勇自身、尊皇攘夷の志士と思っていたはず)。

 作者は、名もない男達が時代を動かす『桜田門外の変』を契機として、『酒屋の息子』が時代と国家に向かい合った時、どう動いたかという視点で清河八郎を描いています。組織と後ろ盾を持たない清河八郎が、尊皇攘夷の思潮の中で何事かを成すためには『策士』とならざるを得なかったという事です。頼れるのは己のみ、北辰一刀流の腕と昌平黌まで進んだ詩文・弁舌の才のみです。弁舌を駆使し、人を集め、他人の褌で相撲を取る清河八郎を、後世は『策士』と呼びます。

 藤沢周平の歴史物は小説としては面白味に欠けます。実在の人物を扱うため、史実が想像力の邪魔をするのでしょうか?海坂藩を描いた『蝉しぐれ』の様に、人の心の襞にまで分け入る繊細さ、伸びやかさが感じられないのは残念です。
★★☆


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