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船戸与一 満州国演義5 灰塵の暦 [日記(2010)]

灰塵の暦―満州国演義〈5〉

灰塵の暦―満州国演義〈5〉

  • 作者: 船戸 与一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/01
  • メディア: 単行本
 4巻の話しですが、青龍同盟を失った次郎は関東軍特務・間垣徳蔵、綿貫昭之に雇われ、様々な謀略に手を染めています。
次郎と綿貫昭之の会話です。

次郎:おれは刹那刹那で生きているだけだ・・・。
綿貫:そのうち(自由を)持て余しますよ。自由というのはある意味じゃ厄介なものだ。実に扱いにくく、その上重い。わたしはその重さに潰された連中を何人も知っている持て余して捨てたくなったら、わたしに知らせてください。自由よりずっと心地いい境地を用意します。
次郎:何なんだね、それは。
綿貫:国家への隷属ですよ。孤独でしょう、自由は? しかも、誰からも赦されることがない・・・国家に隷属しさえすればすべてが赦されるんです。どんな残酷な犯罪も。一度、天皇陛下万歳と叫んでごらんなさい。あらゆることが一瞬にして救済されます。

これですね、天皇制の核心かもしれません。


 次郎は救済を望む性格に設定されていませんから、金のためと割り切って謀略に手を染めています。次郎によって描かれるのは、むしろ満州における幅広い抗日の動きです。満州人の土地を買い叩いてそこに日本移民を入植させるのですから五族協和など嘘っぱち、日本に対する反発は当然で抗日運動は民族意識以前の問題でしょう。特に組織だった動きは中国共産党に組織された『東北抗日聯軍』です。関東軍の侵略とともに行き場の無くなった匪賊、馬賊が合流し、抗日パルチザンの陣容は次第に大きくなります。 
 次郎は同じ匪賊、馬賊を使ってこれを潰す謀略に手を出すのですが、『西部劇』です。この戦闘で次郎は自らも負傷し、愛馬・風神と愛犬・猪八戒を失い、モーゼルを捨て大掛児(ターコール)を背広に着替えて『生まれ変わ』ります。時代はならず者が跋扈する満州から、政治と軍事の魑魅魍魎が跋扈する満州に変貌し、作者としても次郎の馬賊としてのキャラクターに限界を感じたのでしょう。

 5巻では、『盧溝橋事件』に端を発した日中戦争、第二次上海事変を経て南京占領が描かれます。三郎は関東軍より派遣された中支那方面軍の憲兵大尉として南京占領に同行し事件を目撃します。
 ハルピン日日新聞の整理記者だった四郎は、またも間垣徳蔵の指示で、天津の新聞・庸報(社主は里見甫)に記者として移り、さらに庸報の特派員として上海にいます。第2次上海事変の戦場から派遣軍を追って南京に移動し、南京事件の目撃者となり、三郎と四郎は戦場でまみえることとなります。
 南京事件の犠牲者数は数千人~20万人と未だその規模が確定していません。南京事件の要員は、糧秣を現地調達とした日本軍の兵站の粗雑さ、捕虜の処分を小隊に任せた命令の不備などが作中でも述べられていますが、戦争という狂気が生んだ悲劇です。三郎も四郎も、この混乱のなかで目撃者=傍観者として為す術も無く立ちつくします。 

 1928年の張作霖爆破事件で幕を開けた『満州国演義』は、5巻で1937年『南京占領』まで来ました。満州国の崩壊は1945年ですから、作者は何処まで書き継ぐつもりなんでしょう。
 4巻、5巻と、日中の軍事・政治的背景を描くことに比重がかかり、『演義』色が薄れてきました。船戸与一の書くものは基本的に説話ですから、もっと物語性を重視して欲しいものです。包頭で次郎が救い出し、通化で酒房の主人に収まった項麗鈴はどうしたんだ!四郎が仄かに慕う盧青芳は志麻子の魔手から逃れ四郎の胸に飛び込むのか? デス。第6巻はいつ頃出るんでしょう?

満州国演義4 炎の回廊
満州国演義3 群狼の舞
満州国演義2 事変の夜
満州国演義1 風の払暁


タグ:読書 満州
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