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読書 デイヴィッド・ベニオフ 卵をめぐる祖父の戦争 [日記(2010)]

卵をめぐる祖父の戦争 ((ハヤカワ・ポケット・ミステリ1838))

卵をめぐる祖父の戦争 ((ハヤカワ・ポケット・ミステリ1838))

  • 作者: デイヴィッド・ベニオフ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/08/06
  • メディア: 新書






 作家ベニオフの祖父が第二次世界大戦の思い出をベニオフに語る、という枠組みです。このレーニングラード包囲戦ですが、街そのものがドイツ軍に包囲されて補給路を絶たれ、飢餓の為に人肉が売買されるという酸鼻を極めた戦いだったようです。市民の犠牲が100万人という、非戦闘員を巻き込んだ第二次世界大戦でもっとも悲惨な戦闘です。

 この戦闘の真っ最中、赤軍の大佐に命じられてベニオフの祖父は鶏の卵を探すんです。だから『卵をめぐる祖父の戦争』。卵は、大佐の娘が結婚するので、結婚式のために焼くウェディング・ケーキの材料というわけです。 少女が殺されてその肉がソーセージの材料となる飢餓の最中に、ウェディングケーキのために卵を調達するわけですね。この設定そのものが秀逸で、深刻な戦争の中にあるある種の真実を取り入れているのでしょう。17歳のベニオフの祖父レフと20歳の脱走兵コーリャは、5日間のうちに1ダースの卵を見つける旅に出ます。 悲惨な物語を想像しますが(実際、悲惨な状況なんでしょが)、レフとコーニャのコンビは絶妙で、どんな状況に置かれても冗談と猥談と文学談義笑い飛ばして乗り切っていきます。

 大義名分も何も無い命令ですから、馬鹿話でもしていないとヤッテラレナイというところでしょう。レフは強制収容所に消えた詩人を父に持つユダヤの青年。チェスの名人で頭の中は性的妄想で一杯。コーニャは、何かと言うと未だ書いてもいない小説から警句を引用する脱走兵。脱走の理由が女性を抱きたかっただけという明るさ。何かにつけ、レフに女性指南をします。

このコンビの饒舌とレーニングラードが置かれている惨状で前半は終了します。後半、ふたりがドイツ軍の慰安所に侵入するあたりから物語は俄然動き出します。慰安所は、家族が殺されたり拉致されて残ったロシア娘を集めた施設で、ドイツ将校の欲望処理所です。これも悲惨な話しなのですが、レフとコーニャはドイツ将校をやっつけ娘達を解放しようという冒険へと踏み出します。

とまぁ、これは少年達の冒険譚でありビルドゥング・スロマンなのでしょう。戦争や飢餓も、若者にとっては冒険の季節に変わりはありません、命を落とす危険が待ちかまえているにしろ、です。


タグ:読書
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