和田竜 のぼうの城 [日記(2011)]
面白いと話題になった本なので読んでみました、当然古本です。周囲から「のぼう(でくのぼう)」と思われまたそう呼ばれている武士が、お家存亡の危機に立ち上がって主家と領民を救う、よって「のぼうの城」。
「のぼう様」と呼ばれる本書の主人公・成田長親や長親が立てこもる忍(おし)城などの枠組みは、フィクションではなく史実だそうです。秀吉の小田原攻めのエピソードのひとつです。
どんな時代かと言うと、
1582:本能寺の変(信長討ち死)
1583:賤ヶ岳の戦い(vs.柴田勝家)
1584:小牧・長久手の戦い(vs.徳川家康)
1585:秀吉関白となる
1586:九州の役(vs.島津)
1587:聚楽第建設
1590:小田原の役(vs.北条)・・・天下統一
北条氏を下せば天下統一がなるという秀吉の絶頂期です。この小田原攻めで、北条方の一支城・忍城の攻略を受け持ったのが石田三成。豊臣政権第一の能吏・三成vs.「のぼう様」、攻める三成軍2万に対し籠城する長親方はわずか500。忍城を挟むように流れる利根川と荒川を利用し、三成は堤防(石田堤)を築き忍城を水攻めにします。
忍城に手を焼いている間に本城・小田原城が落ち、三成は絶対に勝てる戦いを落としてしまいます。長親は、500の人数で2万の三成軍と如何に互角の勝負に持ち込んだのか?、これが「のぼうの城」のテーマです。
答えは長親の将器=のぼう=大愚。のぼう様と軽んじられ親しまれる長親が将となって勝ち目のない籠城戦を選択したとき、麾下の将兵や領民が一致団結して「のぼう様」を応援した、というよくある話。
ところが、この「のぼう様」の人間的魅力がさっぱり伝わってきません。普通、様々なエピソードが積み重ねられ、小説の中でイメージが膨らんで、「のぼう様」のためならということになるんですが。
幼い農民の娘がなつき、家老の正木丹波守、柴崎和泉守がそう言うんだから「そうなんでしょう」という他はありません。石田三成の方がよほどそれらしい。正木丹波守、柴崎和泉守、酒巻靱負と個性的な脇役も配し、「たへえ」「ちよ」などの農民の視点も用意されていますが、「のぼう様」がこれでは小説としてはいまひとつです。
「のぼうの城」は映画かTVドラマの脚本のノベライゼイションの様で、これが原因でしょう。俳優の肉体と映像の力を借りれば、「のぼうの城」は息を吹き返すかもしれません。映画化されたようですが、大震災のあおりで公開が2012年に延びたようです。津波と「水攻め」が似ているので遠慮したようですが。
大軍を迎え撃つ籠城戦と云うと、酒見賢一の「墨攻」を思い出します。こちらも中編ですが密度は濃かったように思います。
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