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映画 二十日鼠と人間(1992米) [日記(2011)]

二十日鼠と人間 [DVD]
 原作はスタインベックの小説です。スタインベック原作の映画には、干ばつのオクラホマから豊饒の地カリフォルニアを目指すジョード一家を描いた「怒りの葡萄」があります。「二十日鼠と人間」も、世界恐慌の不況を背景に、ジョージとレニーのふたりの渡り労働者の世界を描いたドラマです。「怒りの葡萄」では、ジョードは人々の罪を負って家族の元を追われますが、将来に救いの予感がありました。「二十日鼠と人間」にそうした救いはありません。先日見た「サイダーハウス・ルール」にもリンゴ摘みの季節労働者(渡り労働者)が登場しましたが、ホーボー(hobo)を描いた「北国の帝王」などとともにアメリカの底辺を見据えた映画です。
 
 舞台を都市に取ると、港湾労働者からヘビー級王座に上り詰めた「シンデレラマン」やNYのユダヤ人ゲットーから這い上がった少年たちを詩情豊かに描いた、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」があります。一方、この暗い時代を駆け抜けた伝説のサラブレッド「シービスケット」と、アメリカ映画にとって1930年代は多彩な物語を提供してくれる格好の舞台のようです。 
 「二十日鼠と人間」の面白さは、ジョージとレニーの凸凹コンビの妙です。ハンサムで頭のよいジョージと知恵遅れの大男レニーそのものが“Mice and Men”(原題)をの比喩ではないかと思ってしまいます。ジョージはいつでもレニーを捨てて渡り労働者の境遇から抜け出すことができる筈ですが、レニーが好きでレニーと共に底辺の生活を送っています。レニーのために仕事を首になったことも再三あるようで、ふたりの関係は友情というよりも、親が子を愛する無償の愛に近いものでしょうか。
 
 知恵遅れのぶん心の純粋なレニーはネズミを猫かわいがり(変な喩え)していますが、これはジョージがレニーを見捨てずに保護している構図と同じ位相です。

ジョージ ⇒ レニー ⇒ ネズミ(ウサギ?)

という猫かわいがりの構図です。これに、レニーが力加減が分からずネズミを縊り殺す変数を与えると、

ジョージ ⇒ レニー ⇒ カーリーの妻

という殺人の構図となります。カーリーの妻を殺してしまったレニーを、今度はジョージが自ら手を下します。牧場主の息子の妻を殺したレニーが無事に済むわけはなく、ジョージはレニーのために「殺す」わけです。この、レニーがカーリーの妻を殺しジョージがレニーを殺すという悲劇は、おそらく普遍的な悲劇だと思われます。「二十日鼠と人間」は、恐慌とダストボウルという(当時にあっては)今日的な背景のもとにこの悲劇を描いたわけで、たぶんそういうところが人の心を捉えたのでしょう。

 屁理屈は取りあえずとして、見どころはゲイリー・シニーズとジョン・マルコヴィッチの息の合った演技でしょう。ジョン・マルコヴィッチは「ジャンヌ・ダルク」の悪名高いシャルル7世など特異な脇役として知っていましたが、名優なんですね。
 
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監督・制作:ゲイリー・シニーズ
出演:ゲイリー・シニーズ ジョン・マルコヴィッチ

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