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読書 コーマック・マッカーシー ザ・ロード [日記(2012)]

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)
 映画にもなった2007年のピューリッツァー賞受賞作です。
 SFで云う「終末もの」ですね。世界は破滅し、動植物が絶滅した荒野を父と子がショッピングカートを押して南へ進む物語です。何故世界が破滅したかという明確な説明はありません。核戦争か、小惑星の衝突か、火山の噴火か何かで「灰」が地球を覆い、太陽が射さなくなって動植物は死滅、気候は寒冷化に向かっている様です。わずかに生き残った人々は食料を求めて暴徒と化し、殺人と食人が日常化している世界を、飢えと寒さと闘い食料を探しながら父親と少年は南を目指します。
ザロード1.jpg ザロード2.jpg
  映画「ザ・ロード」                 犬は出てこなかったです
 
 この小説で泣かせるのは、子を思う父と父の思いに答える子の交流でしょうね。子供を持っていないとこの感動は伝わらないかもしれません。こんなによく出来た子供が何処にいるんだとも思うのですが、少年はこの地球の異変後に生まれていますから文明を知らないわけで、あるがままの世界を受け入れ父親を唯一の人間関係として成長したんですね。強い父親と賢い息子、我が子を叱れない父親がいる昨今ではある意味理想の親子関係ですね。
 
 父親は、自衛のために実弾が2発入った拳銃を持っています。ならず者に1発使って残りは1発。この1発は非常時に息子を撃ち殺す1発であり、息子の自殺用の1発です。

お前にそれができるか?・・・もし不発だったら?この子の頭を石で打ち砕けるか?

やつらに見つかったらやるんだ。わかるか?・・・口に入れて上のほうに向ける。すばやく力いっぱい引く。わかるな?泣くんじゃない。わかるな?

父親は、自分が息子を守れなくなったら息子を殺す決意です。「やつら」とはこの世界で飢えによって食人鬼と化した人間のことです。食われるために殺されるなら自殺せよ、というわけです。そして父と子の約束は、どんなに飢えても食人はしないというもので、世界を善きものと悪しきものに分け、略奪と殺人とたとえ緊急避難であっても食人は絶対にしないという約束です。この高い倫理性を持って行動することを、親子は「火を運ぶ」と表現しています。

 父親は病に倒れますが、息子を殺すことはせず、「善きもの」の幸運に息子を託します。少年は同じように南を目指す夫婦と出会い旅を続ける様です。新しい神話(レジェンド)の誕生です。

 訳者の「あとがき」に「子連れ狼」と「ロビンソン・クルーソー」との類似点についての話が出てきます。「ロビンソン・クルーソー」については、本書を読みながら時折連想しました。父子が防水シートでテントや靴を作り、無人の家や船から食料を調達して生き延びてゆく姿は、無人島に流れ着いてクルーソーが独力で生き延びてゆく姿とダブります。船で六分儀を発見しますが、発見した父親同様にこちらもワクワクします。太陽も星も見ることのできない世界で六分儀は役に立ちませんが、父子のサバイバルに一喜一憂させられます。そういう意味では立派な冒険小説と云うこともできます。

 映画のほうを先に見ているのでどうかなと思ったのですが、父親を演じるヴィゴ・モーテンセンが邪魔しないぶん、小説の方が生な「父子」を感じることができます。 

タグ:読書
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