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BSシネマ 駅 STATION(1981日) [日記(2013)]

駅 STATION [DVD]
 NHK・BS、2012年の年末は「健さん」特集でした。健さん?言わずと知れた高倉健です。最近のNHKはずいぶんとさばけてきたものです。『昭和残侠伝』『網走番外地』の健さんですが、1970年代後半からは優等生的な役柄が多く、往年の「死んで貰います!」のセリフにしびれた世代には物足りないと言ってはナンですが。もっとも、任侠映画の高倉健も任侠以降の高倉健も、過去を秘めて耐える男というキャラクターでは一貫しています。

 高倉健が刑事役で出演します。高倉健の刑事というと、リドリー・スコットの『ブラック・レイン』でマイケル・ダグラス、アンディ・ガルシア相手に一歩もひけを取らない存在感を示しました。『駅 STATION』の刑事・高倉健はもう少しウェットです。
 映画は主人公の北海道警・警察官・三上英次(高倉健)にかかわりを持つ三人の女性を軸に三部構成をとっています。

直子(いしだあゆみ)
 元妻。この「部」で三上英次の因って立つ背景が決定されます。直子の「たった一度の過ち」によって三上は離婚します。この「過ち」が何であったかは明かされません。オリンピックの射撃選手に選ばれる程の銃のプロであり、上司を凶悪犯によって射殺され、離婚によって妻子を失った孤独な警察官という三上英次が出来上がります。
 三上と直子との別れは「駅」です。三上の思いは、動き出した列車から直子が敬礼するシーンで描かれます。人が降り立ち旅立つ鉄道の「駅」(留萌本線増毛駅)を舞台に、三上英次の人生の哀歓が謳われます。

すず子(烏丸せつ子)
 殺人犯の妹。薄幸の兄妹というのも日本人の琴線にふれるテーマのようです。兄がすず子に連絡を取ることを見越し、警察が張り込み、兄は妹に連絡を取って現れた「駅」で三上に捕まります。すず子の兄は死刑判決を受け、英治は刑が執行されるまでこの死刑囚に差し入れをしますが、ここでも英治の優しさと死刑囚に自身を投影する孤独が描かれます。
 すず子と英治と直接の接点はありません。「駅」前の食堂でけなげに働き、街のチンピラの子供を妊って堕ろすすず子を、三上の眼が追います。すず子の薄幸と孤独は、そのまま三上の人生でもあるわけです。
 もうひとつ、銀行に立てこもった強盗を三上が射殺するという、三上を造形するエピソードが描かれます。オリンピックの射撃選手に選ばれる警察官の影の部分です。人の死に関わる、場合によっては人を殺すという職業の三上の陰影が描かれます。

桐子(倍賞千恵子)
 「駅」の近くにある小さな居酒屋「桐子」の女主人。年末の夜、故郷に帰る連絡船が欠航し、ふと立ち寄った居酒屋で桐子と出会います。駅で待ち人来たらずの桐子の姿が三上に目撃されていますから、孤独と愁いを漂わせた女性という設定です。桐子との出会いがこの映画の山場です。寄る辺ない男女が互いに暖め合うように関係を結ぶわけです。連絡船の出ない大晦日の夜、紅白歌合戦を見ながら酒を酌み交わすシーンに八代亜紀の『舟唄』が流れ、初詣をするふたり擬似的な幸せを映します。『男はつらいよ』と同じ構図で、これはニッポンのお正月映画なんだ。
 桐子には指名手配の昔の愛人がいます。この男が桐子のもとに現れ、桐子は男を迎え入れながらも警察に通報するという行動を取ります。この逃亡犯を射殺するのが三上。

 直子、すず子、桐子と、警察官としての職業が三人の女の幸せを奪うという三上が描かれますが、これはほとんど義理(警察官)と人情(女性たち)を描く伝統的日本映画のスタイルであり、日本的叙情の世界です。
 三上=高倉健を、三人の女優を以って描くという手法です。高倉健は演技をしません。いしだあゆみ、烏丸せつ子、倍賞千恵子がそれぞれの薄幸を演じれば演じるほど、高倉健の存在が光るという映画です。高倉健はそうした俳優なのかもしれません。お薦めです。

監督:降旗康男
脚本:倉本聰
出演:高倉健 倍賞千恵子 いしだあゆみ 烏丸せつ子

タグ:BSシネマ
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