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林望 謹訳 源氏物語(2) 夕顔 [日記(2013)]

謹訳 源氏物語 一
 引き続き『リンボウ源氏』です。光源氏というのは、女好きで、女性をモノにするためには平気で嘘もつくという、あまり褒められた青年ではないですね。

【夕顔】
六条のあたりのさる女のところへお忍びで通っていた時分のことであった。ちょうど内裏からその六条へ通う途中の中休み所として、源氏は五条にある乳母の大弐の家を探して訪ねていった

とありますから、あの有名な「六条御息所」ですねぇ、化けて出るんでしょうか。乳母の息子で「惟光」というのも登場します。本帖でも夕顔と源氏の仲を取り持ったり後始末をしたり大活躍します。
 この乳母の隣の家の庭に白い夕顔が咲いているのを見て、源氏はお供の者に取って来ることを命じます。すると可愛らしい童女が現れて、これに乗せれば、と香を焚き込めた白い扇を差し出します。これがきっかけで、源氏の新しい恋愛がはじまります。でもってその女性の名は「夕顔」。

 扇には歌が書いてあり、源氏は扇の持ち主が気になって惟光に調べさせるのですが、 
 
惟光は、〈またいつもの悪いクセが……〉とは思ったけれど、まさかそうも言えない。

ははは、見透かされています。どんな事でもソッチの方面に利用しようという源氏ですから、早速返歌となります。源氏物語にはこの種の和歌が頻出します。歌は、古歌の「本歌取」か文言に二重の意味を持たせた駄洒落なんですねぇ。「雅」なんでしょうが、「小説」を読んでいる方としては、いちいち鬱陶しいです。歌心などというのは持ちあわせていないので、歌は読まずに解説だけ読むことにしています(笑。
 まぁこの日は六条の恋人のところにいくのですが、夕顔が気になって仕方がない。夕顔ってまだ登場していないわけで、源氏は扇と香と歌で恋を始めるわけです。
 六条の帰りに乳母の屋敷を訪ねて、おい惟光調べたかとなるのですが、これが分からない。得意の「覗き見」をするとこれが「美形」で、源氏は俄然やる気を出すわけです。

 「雨夜の品定め」で、このような下流の粗末な家に思いがけないほど素晴らしい女性がいる、と言った左馬頭の言葉がよみがえります。中流の空蝉にフラレたし、伊予介は空蝉を連れて任国に下るらしい、間違って情けを通じた軒端荻は結婚するらし、リベンジだというわけです。

 またも六条に通った帰りに夕霧の屋敷に立ち寄ります。ここで、六条の女君について、サラリと触れられています、

この六条の女君は、物事を度を越して思い詰める性格ではあり、また源氏よりはるかに年上で不釣り合いなことでもあり、もし万一、源氏との関係が世間に漏れ聞こえたらと思うとそれも気が気ではなし、ともかく一人ぽっちの閨で夜も安くは寝られぬまま、展転反側、ああでもないこうでもないと、くよくよと思い悩むばかりの毎日であった。

 源氏という人は、関係を持つまでは恋焦がれるが、一旦関係を持つと「手のひらを返したように疎略な扱い」をするようで、女君の「事を度を越して思い詰める性格」が合わさって夕霧の悲劇を生むわけです。六条の邸からの帰り際にも中将の君という女官にちょっかいを出したり、この人は本当に好きです。

 惟光は、探索するうちに隣の家の女房をちゃっかり恋人にしたりで、探索も進み、夕顔の正体が次第に明らかになります。なんと、「雨夜の品定め」で頭中将が話していた「常夏の女」なのです。少し戻って(こういう時に、「常夏」で検索するすぐたどり着けます、kindle便利!)どういう女性かというと、頭中将が子供までもうけた女性で、本妻の嫉妬のために辛い思いをし、頭中将がしばらく通わない間に子供ともども姿を消した女性です。
 惟光の手引で、源氏は夕顔と首尾よく思いを遂げるわけですが、

顔はちょっとでも見えぬように覆面をしている。しかも、すっかり人々が寝静まった深夜にならなければやって来ない、という昔の物語に出て来る三輪の神さながら、いずれ妖怪変化かと疑われるようななり形で通うのであった。

隠れて通うのは当然ですが、夕顔にも素顔を見せません(通うのは夜だから顔も分からない)。当然何処の誰かもわからないままです。源氏は、帝の皇子という立場もあるのでしょうが、スキャンダルを気にしてなかなか用心深いです。

 女房たちのいる五条の狭い家ではなく、数日ゆっくり過ごそうと、夕顔を某の院の邸に誘い出します。召使はいるものの荒涼とした邸で、そしてここで怪異な事件が持ち上がります。源氏は、嫉妬に狂った美しい女が夕顔につかみかかるという夢を見ます。夢から醒めてみると、傍らに臥せっている夕顔の息がありません。

紙燭を手元に引き寄せて見ると、まさにその夕顔の臥せっている床の枕上に、夢に見えたのとそっくり同じ女の姿が、幻のように浮かんで見え、ふっと消えた。

 出ました、生霊です。この女が六条の女君(六条御息所?)とは書いてないのですが、嫉妬で源氏の恋人を取り殺すのですから、やはり六条の女君ではないかと思います。逢引の最中に相手の女が変死するわけですから、これは大変な事態です。「惟光!」となります。

なんだってまた、命までも賭けて、こんな目にあわなくてはいけないのだろう。これはいったいどういう因縁なのであろうか〉と、それにつけても、またふと藤壺とのただならぬ関係のことを思い出す源氏であった。我とわが心ながら、恋の道のことでは、身分不相応な、しかもあってはならないような欲望の報いとして、ついには、いま目前に起こっているような、古今の語り草になりかねないような事件まで起こしてしまったのかもしれない、と源氏は思う。

と反省しきり(下線部は後で)。源氏は夕顔の死を嘆き悲しむのですが、一方で「しっかり」スキャンダルを気にしています。こういう時に、惟光は本当に頼りになります(きっと出世するでしょう)。源氏を逃し、夕顔の亡骸を知り合いの尼のところに運び込んでなんとか取り繕います。源氏は、何故亡骸と一緒に車(牛車)に乗って行かなかったんだろうと後悔し、惟光が夕顔を運び込んだ東山の寺に駆けつけます。

夕顔といい、空蟬といい、人に知れてはいけない恋はさも苦しいものだなあ、と今度という今度は思い知った源氏であった。 こういうくどくどと煩わしいことは、源氏が強いて押し隠し秘密にしていたので、筆者としても書くに忍びないとは思ったのだが、どうして、帝の御子だからといって、かれこれの欠点について知っていても知らぬふりをし、褒めてばかりいるのか、そんなのはいかになんでも作り話ではないかと受け取る人もあるだろうと思うが故に、敢えて書くことにしたのである。あまりの口さがないおしゃべりの罪は、どうしたって逃れる術もないことは承知ながら。

と源氏も作者・紫式部も反省しきりで、「夕顔」の巻は幕。

 空蝉の帖にもチラと書いてあったように思うのですが、「藤壺とのただならぬ関係」のことです。藤壺は、源氏の父である桐壺帝の寵妃です。亡き桐壷の更衣に生き写しの藤壺を、幼くして母を亡くした源氏も慕っていたということは、「桐壷」で描かれていますが、ただなる関係にあるとは、源氏は父親の恋人と不倫関係にあるということですねぇ。現代の感覚から言うと、ちょっと考えられません。
 この「ただならぬ関係」を引きずって、源氏物語は「若紫」へ続く・・・。

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