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映画 プライド・運命の瞬間(1998日) [日記(2013)]

プライド 運命の瞬間【DVD】
 久々に映画ネタです。
 
 東京裁判(極東国際軍事裁判)を、東条英機(津川雅彦)を主役に描いた映画だというので見てみました。こちらによると、スポンサー付きの映画で、パール判事の映画を作る企画があって、それでは売れないだろうということで東条英機にしたとか。東条英機が主役でも売れなかったろうと思います。
 東京裁判、東条英機、パール判事の三題噺は、発想としては面白いと思いますが、この映画ではパール判事だけ浮いています。東条英機を描きたかったスタッフと、パール判事にこだわったスポンサーの妥協の産物のような映画です。津川雅彦の熱演と発想が良かっただけに惜しまれます。

 映画は、キーナン首席検事(スコット・ウィルソン)と東条英機の闘い、、キーナンとウェブ裁判長(ロニー・コックス)の確執を中心に、勝者が敗者を裁く東京裁判の「欺瞞性」を描いています。
 冒頭から、重光 葵に、太平洋戦争は東南アジアの欧米列強支配からの解放戦争であると発言させ、錯乱した大川周明が「茶番だ!」と法廷で叫ぶ有名なシーンが挿入され、製作者の意図が明確にされます(いい悪いは別にして)。
 
 日本側の弁護人ブレイクニーは、国際法により戦争は犯罪ではないと裁判そのものを否定し、日本の戦争行為が違法であるなら、多くの市民を殺傷した原爆の投下も裁かれるべきであると主張します。戦勝国の戦争犯罪は合法で、敗戦国の戦争犯罪は違法であるとする東京裁判は、戦勝国による報復裁判であると裁判の無効を訴えます。
 キーナンは、ブレイクニーのこの発言の同時通訳をストップさせます。米国の意向に従って日本軍国主義を告発する検察官と、法理論を駆使して日本を弁護する弁護人が、同じ米国人であるところが面白いです。米国人が自国の戦争行為を犯罪と主張する、主張出来たというところに、米国の力を思い知ります。
 時代が時代ですから、この論争はそれ以上に進展しなかったようです。裁判は(何時の時代でも)政治の従属物にすぎないわけです。

 所謂「南京大虐殺」が「人道に対する罪」として告発されます。虐殺を目撃した宣教師や医師が登場し、生々しい虐殺の事実を証言します。弁護団は、いずれも「伝聞」であること、一般市民に対する虐殺は、市民を騙った中国兵(更衣兵)との戦闘行為であることを理由に反論しますが、裁判では検察側の告発が有効となります。

 その他にも、日本の開戦は英米の経済封鎖によるものであり、日米交渉の乙案の一つでも米国が飲んでいれば日本は戦争に突入しなかったと東條に発言させています。
  などなど、この映画「自虐史観」に対する反論で満ちています。

 東京裁判の焦点は「天皇訴追問題」です。ポツダム宣言の受諾は日本の国体護持が条件であり、米国の占領政策においても天皇制の維持は必要だったようです。東條の証人喚問を控えて、弁護人の清瀬一郎(奥田瑛二)が接見に訪れます。清瀬は、天皇の戦争責任を回避するため、東條が天皇の意志に反して戦争を遂行したことを証言させようとします。この時の東條・津川雅彦の演技は、なかなか見応えがあります。東條は、天皇と日本国を信じ、そのために戦争を遂行したという信念(プライド)を持っていますが、そのプライドを自ら否定する立場に追い込まれます。これがタイトル『プライド・運命の瞬間』の謂れなのでしょう。
 証言台で東條は、「太平洋戦争開始の詔勅」に拠って、天皇は開戦に「しぶしぶ同意した」と証言し、天皇の戦争責任を回避します。

 これら裁判の実相とともに、サイドストーリーが描かれます。

 主席検事であるキーナン(米)と裁判長ウェブ(豪)の確執です。この確執は、天皇の戦争責任を回避し裁判の早期終了を望む米国と、天皇の戦争責任を裁きたいオーストラリアの確執でもあるわけです。裁判の途中でキーナンがウェブの宿舎(帝国ホテル)を訪れ、ウェブの法廷運営に文句を付けたり、裁判が長引くのはお前の証拠固めが下手だからだと反論したりで、戦争裁判の複雑さをのぞかせていまし。
 キーナンは、その高圧的な態度から、ギャング相手に辣腕を振るったFBIだとか陰口をたたかれ、ウェブは、「事後法の問題」や裁判の根拠を明らかにせよという清瀬一郎の動議に「後で答える」といってウヤムヤにするなど、まぁどっちもどっちキツネとタヌキですキツネとタヌキには失礼ですが)

 とまぁ、個人的にはなかなか興味深い映画です。ですが、パール判事の描き方は中途半端。もっと中途半端なのが、パールの宿舎(帝国ホテル?)の客室係・立花。インド独立運動を支援した日本人将校の前歴を持って登場し、日本のアジア解放の証人として東京裁判に出廷しますが喚問が却下されます(そんな事実は無かった?)。ホテルを馘首になってパールの推挙でインドにでかけ...何だそれ。

 そうそう、検事側の証人として被告に不利な証言をした田中隆吉(元陸軍少将)を吉本の島木譲二さんが演じています。???ですが、画像検索してみると似ていなくもないです(笑。例の、法定の被告席で登場の頭をペタペタ叩いた大川周明を演じたのが石橋蓮司。この方はクセのある役どころを演じさせると、いずれも絵になります。

 2時間半は長過ぎます。パール判事の部分を全部カットして、タイトル通り「東京裁判&東条英機」とすればなかなかいい映画になったのに、惜しいです。是非とも、ディレクターズ・カット版を作って欲しいですね。もっとも、そんなものを作ても売れないだろうし、右傾化といって揚げ足を取られかねませんが。
 
 でお薦めかというと、難しいです。イデオロギー色の強い映画なので、評価が別れると思います。反「自虐史観」にアレルギーの出ない人であれば、面白いと思います。
 
 
監督:伊藤俊也
出演:津川雅彦 スコット・ウィルソン ロニー・コックス 奥田瑛二 いしだあゆみ

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コメント 2

cocoa051

東京裁判は、勝者が敗者を裁くという点で問題を含んだものといえますね。
パール判事に焦点を当てることで、一歩踏み込みが足りないとの批判は当然でしょう。
by cocoa051 (2013-11-10 09:30) 

べっちゃん

小林正樹のドキュメンタリー『東京裁判』を見てみようと思います。日本が開戦に踏み切った「日米交渉」辺りまで遡ると、実相が見えてきそうですね。
by べっちゃん (2013-11-10 20:06) 

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