BSシネマ 西部悪人伝（1970伊西）

　原題は“SABATA”。セルジオ・レオーネの『夕日のガンマン（1965）』『続・夕陽のガンマン（1966）』に出演したリー・ヴァン・クリーフ主演の「マカロニ・ウエスタン」です。『荒野の用心棒』のヒットとともにブームとなり数百本作られたようです。基本的にはB級映画ですが、マカロニ・ウエスタンが新鮮だったのは、善悪を問題としない乾いたトーンと、リアルな暴力シーン、それを包むユーモアでした。人の心に巣食う「悪」を開放してくれるような映画ですね。

　『西部悪人伝』もそうした「乱造」作の1編。『夕陽のギャングたち』がセルジオ・レオーネの「ウェスタン」終決宣言であるとすれば、同じ1970年公開の本作は、夕陽の（暮れゆく）「マカロニ・ウエスタン」です。そうした意味で、「マカロニ・ウエスタン」の面白さもつまらなさも全部詰まっています。

　リー・ヴァン・クリーフ（サバタ）は、『夕日のガンマン』で黒いマント（というんですか？）にパイプをくわえ、オタクな銃を携えた賞金稼ぎとして登場します。よほど評判がよかったのか『続・夕陽のガンマン』にも同じスタイルで登場し、（真ん中の作品は見ていませんが）『西部悪人伝』でも全く同じスタイルで登場します。つまり、全面的にリー・ヴァン・クリーフの《モーティマー大佐》に寄りかかった映画です。

　今回もオタクな銃が登場します。何と、7連発デリンジャー（銃身が4連発で、銃把に3連発の砲身が仕込んである）、おなじみの長い砲身をねじ込んで命中精度を上げるライフル、などです（大笑。

　主役がそうですから、ストーリーも「古き良き」マカロニ・ウェスタンの様式を全面的に取り入れています。流れ者の賞金稼ぎ、ヒーローを取り巻く憎めない人物（カリンチャ）、敵味方不明の謎の人物（バンジョー）、派手なガンプレイにダイナマイトの大量殺人（笑。主人公が一度は死んで生き返る、などなど。困るのは、前後の脈絡もなしに見せ場のオンパレードで、脚本はどうなってるんだというところです。

　サバタに奢ってもらったの縁で、サバタを応援するのが呑んだくれのカリンチャ。イーライ・ウォラックの線を狙っての起用だと思うのですが、残念ながら役者が違う。カリンチャとともにサーカスの軽業師のような人物がサバタに味方します。飛んだり跳ねたりするだけで、セリフがまったくありません。聴覚障害で喋れないのかと思ったら、サバタの言うことは聞こえているようで、何故出てきたのかよく分からない配役です。飛んだり跳ねたりしてサバタを助けますから、まぁそういうことです。

　もうひとり、敵味方不明の謎の人物がバンジョー。酒場でバンジョーを弾いているから名前がバンジョー、安直。バンジョーを弾く手元は絶対に映さないという雑な演出（笑。ちょっとチャールズ・ブロンソン風で、酒場の女のヒモが稼業。バンジョーを謎の人物に仕立ててストーリーに緊張感を作る、というのが意図でしょうか。

　このバンジョー、バンジョー（楽器）にライフルを仕込んで5人の敵を一気に撃ち殺すというウソみたいなシーンを演じます（いやウソですね）。これには笑いました。以後、バンジョーがそれらしいことを言ってもしても、どうせウソだろう、と思ってしまいます。

　悪役は牧場主ステンゲルと街の判事。ステンゲルは、手下を使って銀行から10万ドルを盗み出します。これを鮮やかなガンさばきで取り戻すのがサバタ。ステンゲルと判事は、鉄道が通るテキサスの土地を買い占め一儲けを企んでいたのですが、これをサバタに阻止されます。ここから、ストーリーはサバタvs.ステンゲルとなり、ステンゲルは、手下を使ったり殺し屋を雇ったりしてサバタを殺そうと躍起になります。このステンゲルは、髪を横分けにして禿頭を隠す吸血鬼といった風貌（なんじゃソレ）。自宅の屋敷には西洋鎧を飾り、ちょっと18世紀風の貴族の衣裳など（ステッキを持ったり）着ていますから、スペイン貴族の成れの果て？。

　という奇妙な人物が登場する、「マカロニ・ウエスタン」の大傑作です。

　ヒットしたのか、この“SABATA”はシリーズ化され『大西部無頼列伝（1971）』『西部決闘史（Return of Sabata、1972)』と都合3作も作られているようです。第2作の主演は、なんとユル・ブリンナー。「マカロニ・ウエスタン」もユル・ブリンナーを呼んでくるほどメジャーだったのですね。

　でお薦めかというと、ここまで読んでツタヤに走るひとはいないと思います。amazonでは高値が付いていますが、ディスカスにあります。

監督：フランク・クレイマー

出演：リー・バン・クリーフ、ウィリアム・バーガー、フランコ・レッセル、ペドロ・サンチェス

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