SSブログ

中村 真一郎 『色好みの構造―王朝文化の深層』(1985) [日記(2013)]

色好みの構造――王朝文化の深層 (岩波新書)
 リンボウ先生の『謹訳・源氏物語』も、なかなかkindle版が出ないので(11/25に出たみたいですスミマセン)、第6巻『若菜』でとまっています。いい機会なので、かねて入手の「色好み研究書」を読んでみました(笑。当然に絶版です。

 「色好み」というのは、高校の古文の教科書でも習うのですが、先生は「もののあはれ」とかなんとか流してしまします。だいたい、源氏が藤壺と不倫していたとか、玉鬘にセクハラにおよんでいたとかいう下り、教科書には出てきません。今回「リンボウ源氏」を読んでビックリ。日本を代表する「古典」が、全編光源氏の女色、漁色の物語ではないですか。おまけに、六条院というハーレムまで作って妻妾同居の生活。何でこれが「古典」なんだ!。羨ましい限りで →わたしの感想文なるものも、「光源氏」に対する「やっかみ」に満ち満ちています(笑。

【平安の常識、現代の非常識】
 現代の常識、倫理観によって源氏の「色好みを」あれこれあげつらうことは、平安時代の常識からすればそれこそ「非常識」だそうです。中村センセイによると、「色好み」とは、高度にソフィスティケイトされた文化だったいうのです。むしろ、ひとりの女性だけを愛するということの方が「異常」であり「野暮」だといいます。源氏物語にもたくさん出てきますが、当時の男女は、気の利いた文章と趣のある歌を、趣味のよい和紙に達筆で書き、季節の花の枝に結んで恋文を贈ります。これが出来てはじめて、優れた「色好み」で、従って「色好み」は平安紳士淑女の条件でもあります。センセイはイギリスのサロン(ブルームズベリー)を例に、「色好み」はflirtation(いちゃつき、恋愛遊戯)だと仰っています。
 
 恋というものは、もっと上品に、優雅に、遊戯的に、風情をもって行うのが、文明人の教養である、というのが、当時の「色好み」進行のなかでの、紳士淑女たちの信念であった。 
 
信仰だそうです。
 
ブルームズベリー:ケインズ、ヴァージニア・ウルフ、源氏物語の英訳者アーサー・ウェイリーなどがメンバー。

【伊勢物語も「色好み」の文学】
 「色好み」が文化?コジツケじゃないの?と思わないでもないです。源氏に先行する『伊勢物語』(主人公は在原業平)も「色好み」の物語であり、有名な「東下り」も、時の帝の女御(藤原高子)との恋愛や、本来は処女でなければならない伊勢の斎宮と契ったりしたことが原因で都を追放された男の物語だと、中村センセイは仰っています。
 朧月夜との事件で須磨に逼塞した源氏と同じですね。源氏に肘鉄をくらわせた朝顔の君は加茂神社の斎院、源氏が一時執着した秋好中宮は伊勢の斎宮でした。
 色好みというのは、日本の立派な「伝統」であり「文化」なのです(笑。

【藤壺事件も珍しいことではない】
 源氏は、父帝桐壷の寵姫藤壺と契って息子までま生まれています。何とインモラルと思いましたが、
『大和物語』には、業平がさる帝の御息所の元に忍んでいったとか、醍醐帝の御息所は帝の弟とできていたとか、この手の話は枚挙にいとまがありません。まぁ、実父の寵姫と通じたという例は載っていませんが。
 もうひとつ、源氏の2番目の妻三の宮は、源氏の異母兄の娘で、姪にあたります。姪と結婚するというのも現代ではありえませんが、結婚が男が女のもとに通う「通い婚」であった当時、子供は母方の実家で成長するというのが普通です。兄の娘など見たこともない他人で、姪は恋愛結婚の対象となったそうです。これも実例付きで解説があります。柏木は、玉鬘が実の妹分かった後も、恋愛感情を捨てきれずにいるのも不思議だったのでが、これも、相聞歌として『伊勢物語』にあるそうです。

【『源氏物語』は週刊誌】
 源氏物語の登場人物にはモデルがあるそうです。朧月夜は藤原高子(業平の元恋人)、夕顔は何とか親王の雑仕女・大顔、源典侍は紫式部の兄嫁とか。

 藤壺女御と光源氏との密通も、当時、宮廷で語り伝えられて秘話の物語化であったろうし・・・といったふうに、あの物語(源氏物語)は当時の最も興味深い「スキャンダル集」であり、一帖できるごとに、ほとんど今日の週刊誌のように廻し読みされたのだろう。
 読者は、男も女も、次の巻では自分の秘事があばかれはしないかいう、しかしこの流行の物語のなかに登場する名誉は是非、ほしいといいう、矛盾した感情で、スリルを味わいながら、新しい巻のでき上がるのを待っていたに違いない。

 恋の橋渡しをする女房たちは、貴族たちの秘事をすべて知っているわけです。お互いに情報を持ち寄って、この話はあの事件ヨ、あの秘密は何時書かれるのだろうと、新しい巻のでき上がるのを待っていたことでしょう。目に見えるようです。

【堅物だった紫式部】
 面白いのは、第3章「紫式部の反・色好み」です。紫式部のもとにパトロン藤原道長が通ってきたが、彼女は寝室の扉を開けなかったと『紫式部日記』に書いているそうです(事実はそういう関係にあったのではないかというのがセンセイのご判断)。また歌集『紫式部集』を読むと、男女の洒落た関係(色好み)を持つには、少々つき合にくい女性だったようです。このような女性によって書かれた源氏物語は、

 彼女の内部に生来、存在していた反「色好み」性というものが、当時の貴族社会の色好みの風俗を、客観化し、外在化し、対象化する力を彼女に与えた。それによって、あのレアリスムの小説が成立した・・・

のだそうです。確かに、紫式部は、源氏の行動を覚めた眼で見つめ、作者として皮肉を込めた感想をもらしています。源氏を頑なに拒絶する朝顔、セクハラを受けて悩む玉鬘、嫉妬のあまり生霊となって祟る六条御息所、彼女たちは紫式部の分身なのでしょう。

 こ後、「色好み」に対して情熱的に答えた和泉式部、男の「色好み」に知的に対抗した清少納言が登場し、華やかな宮廷の恋愛遊戯が語られます。『和泉式部日記』も『枕草子』も読んでないので分かりませんが、「色好み」の日記であり随筆なんでしょうか。

 ということで、面白かった。源氏を読書中なので★5つです。

タグ:読書
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0