SSブログ

菅 直人 東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと [日記(2014)]

東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと (幻冬舎新書) 東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと (幻冬舎新書)
 先日、終末もののSFを読んでいたところ、国家存亡の危機に総理大臣と国務大臣が右往左往する話がありました。権力を面白おかしく戯画化するというのは、ウケを狙ったのでしょうか。違和感があったので、東日本大震災と原発事故という国家存亡の危機に、時の政府が如何なる行動をとったのか、当時の総理大臣・菅さんの自己弁護?を読んでみました。
 
【総理大臣の危機意識】
  原子力委員会が答申した「最悪のシナリオ」を見ると、今更ながら背筋が寒くなります。「最悪のシナリオ」とは、福島原発が連鎖式にメルトダウンをおこすと「強制移転区域は半径170キロ以上、希望者の移転を認める区域が東京都を含む半径250キロに及ぶ可能性がある」というものです。幸運だったと菅さんは書いていますが、3/11から1週間ほど、日本は国家滅亡一歩手前まで行った様です。実際、諸外国の大使館は関西移設を真剣に検討したようです。
screenshot_2014_04_15T20_39_41+0900.jpg
 半径250kmの避難民は5000万人に及び、日本の人口の40%が住み慣れた街を離れることになります。この最悪のシナリオを念頭に、菅さんが何を考えてどう行動したかが、本書の中身です。この「最悪のシナリオ」が出てきたのは3月25日のことです。菅さんは、地震発生の翌日3/12には、周囲の反対を押し切って現地を視察し、3/15には政府と東電合同の対策本部を設けていますから、かなり早い段階で原発事故の重大性を把握していたことになります。
 
 この菅さんの一連の行動は、後に「官邸の介入」や「総理の介入」として叩かれることになりますが、3/11時点で事の重大性を把握していた数少ないひとりだったことは事実でしょう。それが我が国の首相であったことは、僥倖だったと思います。また、菅さんが震災の翌日早朝に現地入りしたことも、評価していいと思います。事故現場で奮闘する東電関係者を目の当たりにし、ヘリから津波の爪痕を見ています。この時の体験が、その後の菅さんの行動を決定づけたのではないかと思われます。菅さんは、現場にも行かず机上で作戦を立てる大本営作戦参謀の轍を踏まなかったことになります(『大本営参謀の情報戦記』)。

【統合対策本部】
 菅さんが事故現場に行った理由のひとつが、原子力安全・保安院、東電から情報が正確に届かないことに(イラ管ですから)苛立ったことです。政府の指示決定が現場にどう届いているのかを確認しに現地に行ったということです。
 原子力安全・保安院は、事故が起こってから毎日のようにTVに登場していました。この組織は、経産省の外局である資源エネルギー庁の、さらに「特別の機関」という位置づけだそうです。原発推進の経産省の身内ですから、都合の悪いことは言わないということはあり得ますね(後、環境省の原子力規制委員会傘下に移ります)。

 原発事故対応の要となるべき行政組織、原子力安全・保安院からは何の提案も上がってこず、院長は二日目以降、ほとんど姿を見せなくなった。そうした時に東電撤退問題が起きた。

 あろうことか、当事者の東電が事故現場からの撤退を政府に申し入れ(3/15)、菅さん拒否します。実はこれは藪の中で、東電側は余剰人員の一時退避だった、全面撤退だとは言っていないという水掛け論に発展しています。但し、原子炉冷却のため東電が調達した電源車のプラグの形態が異なる問題をはじめ、東電側の対応のマズさを考えると、分は官邸側にありそうな気もします。
 業を煮やした菅さんは、東電本社に政府と東電の「統合対策本部」を作り、じぶんが本部長となって細野(豪志)補佐官を常駐させ、官邸と東電の意思決定のスピードアップを図ります。この辺りは「イラ菅」の面目如実です。東電に行っての第一声が、

金がいくらかかっても構わない。東電がやるしかない。日本がつぶれるかもしれない時に、撤退はあり得ない。会長、社長も覚悟を決めてくれ。六〇歳以上が現場へいけばいい。自分はその覚悟でやる。撤退はあり得ない。撤退したら、東電は必ずつぶれる。

 「イラ菅」千両役者です。震災の翌日早朝に現場に飛び、4日後に直轄の対策本部をそれも東電本社内に立ち上げるとは、菅さんの危機感がいかに大きかったかがうかがえます。
 この後菅さんは、浜岡原発を停止させ、エネルギー政策の見直しを表明し、「脱原発」へ大きく舵を切ります。その後出てきたのは原発を無くされては困る勢力の「管下し」です。菅さんは「復興基本法案」を成立させて首相の座を降りることになります。

菅さんは、チェルノブイリを経験したゴルバチョフの著書から引用しています、

極度に否定的な形をとって現れたのが、所管官庁の縄張り主義と科学の独占主義にしめつけられた原子力部門の閉鎖性と秘密性だった
・・・全システムを支配していたのは、ごますり、へつらい、セクト主義と異分子への圧迫、見せびらかしと、指導者を取巻く個人的、派閥的関係の精神です』」 「チェルノブイリを政治的取引きの具に悪用しようとする者があった。

ゴルバチョフの口を借りていますが、自分を潰しにかかった「原子力ムラ」に対する批判です。

あれぐらいわがままで勝手で強引でという人間でなかったら、たぶん政府の機能が止まっていたのではないか(枝野幸男)
菅首相以外の首相があそこで判断を迫られた場合、判断できた人が誰なのか、私は分からない(細野豪志)wikipedia

 おふたりとも身内ですから身びいきかも知れませんが、菅さんの言動を見る限り、なかなかよくやったのではないかと思います。
 amazonのカスタマー・レビューを読むと自己弁護だ責任転嫁だという批判がありますが、政府側から見た原発事故のドキュメント、ノンフィクションとして、下手な小説よりよっぽど面白いです。

タグ:読書
nice!(4)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 4

コメント 2

yu-papa

トップに立つものの発言ではありませんね。
by yu-papa (2014-04-19 13:49) 

べっちゃん

というか、東電が事故現場からの撤退を申し入れたので、管さんは頭にきたのでしょうね。
by べっちゃん (2014-04-20 10:21) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0