映画 わが町(1956) [日記(2014)]
明治の他吉(辰巳柳太郎) 昭和の他吉
織田作之助の小説『わが町』が川島雄三によって映画化されていると知って、早速見ました。
川島雄三の第1回監督作品『還ってきた男』も原作、脚本ともオダサクです。川島には、この他『暖簾』(原作:山崎豊子)、『貸間あり』(原作:井伏鱒二、脚本:藤本義一)の大阪ものがあり、川島雄三の「大阪もの」はオダサクの影響かもしれません。
映画『わが町』は、小説のエピソードを忠実に連ね、「ベンゲットのたぁやん」佐度島他吉に辰巳柳太郎を据えた「浪速人情もの」です。当然、舞台は大阪でセリフはすべて大阪の下町言葉、小説に痺れた私にとっては出色の一作です。小説の重要な脇役である落語家・〆団治を殿山泰司、理髪店・朝日軒の‘おたか’を北林谷栄が演じています。辰巳、殿山、北林の3人が、明治、大正、昭和と歳を重ねてゆく様が実にイイです。当然舞台は「河童路地」の長屋です。一銭天麩羅屋の種吉は登場しますが、残念ながら蝶子と柳吉(夫婦善哉の主人公)は登場しません。
地下鉄でお見合い たぁやんの最期
小説も映画も、佐度島他吉の「人間はからだを責めて働かな嘘や」という唯我独尊の人生を描いていますが、映画にはひとつだけ異なる視点が追加されています。孫の君枝(南田洋子)とその夫次郎(三橋達也)の視点です。他吉は何かというとフィリピンのベンゲット道路建設の自慢話をします。君枝は、他吉のフィリピン狂いのために、祖母お鶴と母初枝が不幸になったことを非難し、次郎は、道路建設で600人の日本人が亡くなり、他吉が引き止めてために亡くなった人の家族からは恨まれているはずだと非難します。ベンゲットでへこたれなかったという想いだけを、だだひとつの勲章として生きてきた他吉の人生をに鋭い一撃を加えるわけですが、このシーンは小説にはありません。
川島雄三に、大日本帝国の南方進出を非難するというチープな発想は無いはずですから、他吉が、電気科学館のプラネタリュウムで南十字星を見ながら寂しく亡くなるという、ラストシーンのための伏線でしょう。
思い入れのある映画ですから万人にお薦めとは言えませんが、辰巳柳太郎の熱演、古い大阪の街並みにノスタルジーに浸れるということでは、お薦めの一本です。
監督:川島雄三
原作:織田作之助
脚本:八住利雄
出演:辰巳柳太郎 南田洋子 殿山泰司 北林谷栄 大坂志郎 三橋達也
タグ:織田作之助
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