映画 御法度（1999日）

　「御法度」とは、新選組の「局中法度」のことです。「士道ニ背キ間敷事」以下5項目があり、ひとつにでも抵触すれば「切腹」というとんでもない規程です。土方歳三はこの局中法度を利用して、山南敬助以下組織の邪魔者を次々と抹殺していったようです。『御法度』は、新選組隊士の衆道事件（男色）を描いたもので、原作は司馬遼太郎の『新選組血風録』。大島渚が監督するわけですから、原作は単に着想であり原作を超えた大島ならではの表現世界があるのではないかと思います。

　京都の商家の三男坊・加納惣三郎（松田龍平）と久留米藩脱藩・田代彪蔵（浅野忠信）が新選組に入隊します。ふたりとも剣の手練れ。加納惣三郎は、まだ前髪の18歳の美童。そのケの無い近藤勇（崔洋一）さえ、自分の小姓に欲しいと土方歳三（ビートたけし）に頼むほどの美形です。

　

　惣三郎と田代は男色の関係になり、湯沢藤次郎（田口トモロヲ）なる隊士が惣三郎に惚れ三角関係となります。湯沢は田代を斬ると息まいてでかけ、何者かに惨殺されてしまいます。殺人集団「新選組」の中にこう云った愛憎が持ち込まれると、隊の秩序は保たれません。ところが、土方歳三は、自分でも不思議なくらい惣三郎に甘く、監察の山崎蒸（トミーズ雅）に命じて惣三郎を島原（遊郭）で遊ばせ、衆道から引き離そうとしますが失敗。

　山崎が惣三郎を執拗に島原に誘ったため、惣三郎は山崎に言い寄られたと誤解されます。そしてこの誤解のためか、山崎は何者かに襲われ、襲撃現場には田代の小柄が残されているという展開を見せます。つまり、嫉妬に狂った田代が山崎を襲ったと云うことになります。局中法度第4条「私ノ闘争ヲ不許」違反ですから、田代は当然切腹です。新選組は、芹沢鴨惨殺以来暗殺を得意としてきました。近藤は、惣三郎に田代暗殺を命じ、介添人に土方と沖田総司（武田真治）を付けます。

　近藤、土方、沖田という新選組の中核が、18歳の美青年惣三郎に振り回されているという構図です。惣三郎は劣勢を立て直し田代を討ち取ります。ラストで、沖田はやり残したことがあると言って立会の現場に戻り、残された土方は

惣三郎め、美男過ぎた。男どもに嬲られている間に、化けものが棲みついたんだろう

と呟いて、路傍の桜木を一刀のもとに切り倒して見せます。The　End。

　『御法度』の粗筋はこういうことになります。（大昔に読んだので忘れましたが）司馬遼の『新選組血風録』も大筋ではそういうことだったと思います。1996年倒れた大島渚が、病をおして3年かけて完成させた映画です。そういう単純な映画あるはずはない！。

　『御法度』では、謎がいくつか提出されま。ひとつは、湯沢藤次郎を殺した犯人はだれか？、もうひとつは、山崎を襲った犯人は本当に田代か？という謎です。これは、ふたりの果し合いの場で田代の口から明らかにされます。惣三郎は湯沢を殺し、田代から小柄を盗んで山崎を襲って現場に小柄を遺棄したのです。また、土方に前髪を切れと言われた惣三郎は、願をかけているから今は切れないと答えています。ラストで土方によって明らかにされますが、惣三郎は沖田に恋し、湯沢を殺し田代に濡れ衣を着せて殺したのです。

　惣三郎が田代を待ち受けるシーンで、回添えの沖田は『雨月物語』の『菊花の約』という説話を土方に話して聞かせます。それは、男に会うために命を断って霊となった男の話で、これは衆道の話ではないか、自分は、惣三郎も田代も嫌いだ、衆道は嫌いだが美しい物語は好きだと言います。

　その後、土方の心象風景が映像化されます。待っている惣三郎のもとに、田代に代わって土方が現れ、続いて沖田が現れます。そして、真赤な着物に身を包んだ惣三郎が沖田に近づきます。土方は、おまえ、惣三郎に懸想していなかったかと沖田に問いかけます。土方の深層では、自身も沖田も惣三郎に懸想していたということでしょう。

　惣三郎と田代の果たし合いにも謎があります。田代優勢で進んだ果し合いが、惣三郎の一言で形勢が逆転し、田代は討たれてしまいます。何を言ったのか、土方、沖田の耳には届いていません。田代の気が削がれる一言が惣三郎の口から発せられたのでしょう。これは、剣の腕は惣三郎の方が上だが、田代と立ち会うと（男色関係にあるために）負けるという伏線の帰結です。

　さてラストシーンです。沖田はやり残したことがあると言って戻ってゆきます。土方は桜の木を切り倒します。沖田は惣三郎を斬りに戻り、土方は己の中に宿った惣三郎を桜に見立てて、己の心に巣食う「魔」を一刀両断したのだと思われます。

　と推理しても、大島渚が仕掛けたものが何であったかを明らかにしたことにはなりません。土方に倣えば、人の心に巣食う化けもの、魔物ということになるのでしょうか。

監督：大島渚

出演：ビートたけし　松田龍平　武田真治　浅野忠信　崔洋一　坂上二郎　トミーズ雅　田口トモロヲ