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葉室麟 蜩ノ記 [日記(2014)]

蜩ノ記 (祥伝社文庫)蜩ノ記
 直木賞を受賞した世評の高い時代小説で、映画になり今秋公開予定です。文庫本になったら買おうと思っていたのですが、kindle版があり、二泊三日の所用もあったので思わず購入。翻訳物の文庫本を持っていったのですが、もうひとつ身が入らないので旅先でダウンロードしました。便利と言うか、amazonの術中にハマったたというか、まぁ便利です(笑。

 藩主側室との不義によって切腹を命じられ、藩史執筆のために猶予10年を与えられ山間の避地に蟄居する戸田秋谷。秋谷監視のために送り込まれた青年武士、檀野庄三郎。監視する庄三郎が秋谷の人柄に惹かれ、「不義」の秘密の謎解きをするという一種のミステリです。

秋谷殿が藩主の側室と一夜を過ごし、小姓を斬り捨てたのはまことのことじゃ。それは紛れもない。ゆえに秋谷殿は死なねばならん
藩のためかもしれぬが、ひとりの女子のためであるかもしれぬ

などと思わせぶりな文章がありますから、これはお家騒動に愛憎劇が絡んだ話だと察しがつきます。また、探偵役の庄三郎自身が、これもささいな事から城内で刃傷沙汰に及び、切腹となるところを家督を弟譲って隠居となった曰くつきの武士です(都合のいいことに居合の達人)。

 この謎解きに、秋谷が郡奉行だった頃に手がけた、藩の特産品「い草」専売を巡る勘定方と商人の癒着、商人によって搾取され疲弊する農民という構図が用意され、「不義」の背景には、不義の相手とされる「お由方」と側室の「お美代方」の正室をめぐるお家騒動がからむという構成です。
 海坂藩もの(藤沢周平)を彷彿とさせる小説です(そう言えば蜩も蝉だ)。直木賞選評の「既視感に満ちた話」(桐野夏生)という否定的意見も、このあたりでしょう。

 『蝉しぐれ』と類似点が多いです。主人公の幼馴染みが藩主の側室となり、お家騒動の渦中でふたりが再会するという枠組みは同じです。『蝉しぐれ』はビルドゥングスロマン色濃く、『蜩ノ記』は切腹を控えた武士の生き様が主題です。著者は、『蝉しぐれ』の枠組みを借りて、『蝉しぐれ』とは異なる「許されぬ恋」を書きたかったのでしょう。

タグ:読書
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