お手軽 簡単 読書感想文 吉村 昭 『漂流』 [日記(2014)]
今まで「中高生のための読書感想文の書き方」みたいな似非記事で、小林多喜二『蟹工船』、芥川の『藪の中』、山際淳司 『スローカーブを、もう一球』などを取り上げました。まぁまぁ好評で(と勝手に思ってます)、夏休み、冬休みになるとアクセスが増えます。未だにこの「読書感想文」の宿題を出す無慈悲な学校や先生がいると云うことなんでしょうね(笑。
吉村昭『漂流』を読んで、これは面白いし、面白ければ「感想文」にちょうどいいだろうと思って取り上げます。少年時代に読んだ『十五少年漂流記』や『ロビンソン・クルーソー』の興奮がよみがえってきます。
kindle版で532円、文庫本が810円。有名な本ですから、図書館にあると想います。
吉村昭の『桜田門外ノ変』が2009年に映画化されましたが、この『漂流』も、古いですが1981年に映画化されています。『藪の中』では、読書の助けとして映画を取り上げましたが、今回は映画無しでいきます。何故かと云うと、小説が面白いので映像の助けはいらないと思うからです。
【作者について】
吉村さんの作風は、作家としての脚色や憶測をできるだけ入れずに、事実を事実として書くという「記録文学」にあたります。題材も、有名な歴史上の事件であったり、あまり知られてはいないが隠れた興味深い事実であったりで、だれもが興味をもって読むことができます。
【読書感想文】
こちらで書きましたので、参考にして下さい。ほぼ再録です(笑。
天明5年(1785年)、土佐の三百石船の水主・長平の13年に及ぶ漂流物語です。主人公の長平は、野村長平として記録され故郷(高知県香南市)に銅像まで建っていますから、長平の語った漂流物語は記録され、伝承として残っていると思われます。長平たちが、アホウドリの卵を食べ、干し肉を作って生き延びますが、脚気のため次々仲間を失う苦難は、その記録や伝承によったものでしょう。200年以上も前の江戸時代の話を、少ない資料に基づいて数百ページの小説に仕立てたのですから、99%は創作です。創作ですが、事実と事実の間に、長平たちの苦難と嘆きとそして勇気と希望が息づいています。
源右衛門、長平、音吉、甚兵衛4人の乗り組んだ三百石船は土佐湾の中央、香南市から室戸岬の近くまで米を運び、その帰路に嵐に会って漂流します。流れ着いたのは、アホウドリの生息地として有名な「鳥島」です。高知沖から800km近く流されたことになります。鳥島は、絶海の孤島で近くを通る船もなく、僅かな草木とアホウドリの大群が生息する周囲11kmの無人島です。
4人は、わずかな希望にすがってこの無人島で漂流生活を送ることになります。島には水源がありませんから、雨水をアホウドリの卵の殻に貯め、アホウドリの卵や海藻、海で釣った魚などを食べて生き延びます。水、食料、住居、衣服と、困難をひとつづつ克服してゆくこの辺りは、冒険物語として抜群の面白さです。
やがて、食生活の偏りのために源右衛門、音吉、甚兵衛が相次いで亡くなり、長平はひとりとなります。同じ環境で何故長平は生き残ったのか。年齢、体質、海産物の摂取、運動量と理由はあるわけですが、何より生きようと云う意思、生きて故郷に帰りたいという強い想いが、長平を生き延びさせたのだと思われます。
冬が来てアホウドリが島から離れることを予測した長平は、鳥の干し肉を作って冬の食料を確保します。この辺りは、長平のサバイバル術の頂点です。
ひとり取り残された長平に、新しい仲間が加わります。大阪の船によって流れ着いた11人と薩摩の船で漂着した6人です。長平の知恵で、17人も漂流生活を始めますが、大阪船2名、薩摩船2名の死者が出て漂流者たちは大きく落ち込みます。生きようという意思が彼らを救うと本能的に感じている長平は、船の建造を思いつきます。失意の漂流集団に目的を与えて生き延びようとします。流木を拾い、大阪船に積んであった道具を使い、錨を溶かして釘を作り、とうとう14人が乗る30石船を完成させ、外洋に乗り出します。
14人は、人の住む青ヶ島に辿り着き、八丈島を経由して伊豆に帰りつきます。長平が故郷の土佐に帰ったのは、1798年(寛政10年)で、故郷を出て13年が経っていました。
何よりも感動するのは、長平の知恵と勇気とそれを支える生きようという意思の力です。故郷に帰るのだという動機が長平を支え、不可能を可能にしたのでしょう。
これで、原稿用紙3枚少しです。冗長な部分を削れば、3枚に収まるでしょう。
お手軽 簡単 読書感想文
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