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B級映画の楽しみ 歴史編 [日記(2014)]

 映画は、歴史の勉強には最適な教材だと思います。『誰が為に鐘は鳴る』でスペイン内戦の、『アラビアのロレンス』でアラブ独立戦争の、『ドクトル・ジバゴ』でロシア革命の現場に、ヒーロー、ヒロインと共に立ち会うことが出来ます。映画ですから、当然製作者の意図や脚色があり、そのまま信じるわけはいきませんが、映画をきっかけに歴史の内懐に分け入ると、思わぬ収穫があります。

最後の誘惑 [DVD]
最後の誘惑(1988米)】
 キリスト教のバイアスのかかったイエス・キリストを、「イスカリオテのユダ」「マグダラのマリア」に新しい解釈を取り入れ、新しい「ナザレのイエス」を描こうという、マーティン・スコセッシの意欲作です。イエスを売った裏切り者のユダが、この映画ではローマ帝国からユダヤの国を取り戻そうとする活動家であり、イエスに頼まれてイエスをローマ軍に売り渡します。また、ゴルゴダの丘でイエスの処刑を看取り、その復活を見届けた「マグダラのマリア」はイエスと馴染んだ娼婦。ところが、イエスはゴルゴダの丘で死ななかったのです。天使に救けられ、「マグダラのマリア」と結婚し、マリアが亡くなると今度は「ベタニアのマリア」と結婚して多くの子孫を残すという、第二の生を全うします。
 マグダラのマリアとイエスの結婚は、昔からある有名な話ですが、革命家ユダ説というのは目からウロコです。簡単なイエスの事跡を復習して映画を見ると、ナルホド!となります。説得力のある「マユツバ」映画としてお薦めです。

冬のライオン HDマスター [DVD]
冬のライオン(1968英)】
 B級どころか、キャサリン・ヘプバーンが3回目のアカデミー主演女優賞を受賞した名作、超A級です。
 舞台は12世紀フランスで、イングランド国王ヘンリー( ピーター・オトゥール)とその妻エレノア(キャサリン・ヘプバーン)、三人の息子が登場するホームドラマです(笑。世界史が苦手だと、フランスに何故イングランド王がいるんだ!となりますが(私)、もともとフランス貴族とイングランド女妃の息子で、後にプランタジネット朝を興しますから、イングランド王がフランスにいてもいいわけです。
 この好色で強欲なヘンリー2世は、息子の婚約者を愛人にして、11歳年上の妻エレノアを幽閉し、我が世の春を謳歌します。みどころは、ヘンリー2世とエレノアの、仲違いしているのか愛し合っているのかよく分からない関係。これに、3人の息子の相続争いがからんで、このホームドラマを複雑怪奇にします。
 キャサリン・ヘプバーンと ピーター・オトゥールの演技に、後の獅子心王リチャードを演じるアンソニー・ホプキンスもかすんでしまいます。
 プランタジネット朝(アンジュー帝国)、ヘンリー2世あたりを復習して映画を見ると楽しめます。

ブーリン家の姉妹 コレクターズ・エディション [DVD]
ブーリン家の姉妹(2008英)】
 エリザベス1世の父であるヘンリー8世と、反逆、姦通、近親相姦、黒魔術の罪で斬首されたその母アン・ブーリンの愛憎劇です。
 アン・ブーリンをナタリー・ポートマン、妹のメアリーをスカーレット・ヨハンソンの2大スターが演じます。ヘンリー8世は6度の結婚をした好色漢で、最初は妹メアリーを愛人にしますが、アンに目移りして姉妹を手玉に取ります。当然正妻はいるわけです。アンは、ヘンリーを口説いて強引に正妻と離婚させ、正妻の座に座ります。当時、カトリックのイングランドでは離婚が認められていなかったため、ヘンリーはイングランド国教会を作って離婚します。法律を作って離婚して再婚したようなものです。
 アン、メアリーの他、ヘンリー8世の先妻キャサリン・オブ・アラゴン、その娘で後のイングランド女王メアリー1世も登場し、権力とヘンリーの愛情獲得の戦いが演じられます。イングランド版「大奥」です。
 これも、ヘンリー8世、アン・ブーリンを勉強して見ると面白いです。この映画をクリアすれば、次は『エリザベス』『エリザベス・ゴールデンエイジ』ですねぇ。

カティンの森 [DVD]
カティンの森 (2007ポーランド)】
 これもアンジェイ・ワイダ監督の名作です。1939年のナチスによるポーランド侵攻により、ポーランドはドイツとソ連に分割されます。この時、ソ連は占領した地区の将校や役人、聖職者、学者などの知識人を根こそぎ収容所に入れてしまいます。おまけに、1万人(最終は2万人?)以上をスモレンスク郊外の森で虐殺してしまいます。ソ連にとってはポーランド独立運動の芽を摘むという意図があったわけです。1943年、ソ連に侵攻したドイツ軍によって虐殺が明るみに出、ドイツ軍はソ連の犯行を暴くために、死体の徹底的な身元調査を行います。この調査によって明らかになる、ポーランド軍のアンジェイ大尉の妻アンナの物語が中軸を担いますが、主役は「虐殺」です。
 WWⅡの後、ポーランドは共産圏に組み込まれますから、ソ連を犯人とするこの事件は、生き残った人々や遺族に影を落とすことになります。
 映画は、虐殺現場の発掘調査を撮影した当時のフィルムが随所に挟み込まれ、80歳のワイダ監督の執念を感じます

スパイ・ゾルゲ [DVD]
スパイ・ゾルゲ(2003年日)】
  有名な「ゾルゲ事件」を描いた3時間を越える大作です。ドイツ人でソ連のスパイであるリヒャルト・ゾルゲと彼に協力した尾崎秀実を据え、太平洋戦争に突入してゆく昭和という時代を背景に、国家と個人の関係とは何かという主題を描いています。ゾルゲは、近衛文麿首相のブレーンでもあった朝日新聞記者・尾崎とともに、日本中枢の政治状況、国策をソ連情報部に流し、独ソ戦をソ連勝利に導きます。
 ドイツ人と日本人が、ふたりの希望でもある共産主義のために祖国を裏切ったことになります。信念に基づいた反逆、思想に絡め取られてゆく運命をどう捉えるかです。軍国主義、共産主義、国家のため、人類のため、家族のため等々、人は様々な意匠をまとって生きるほかはないわけです。
 スパイ、諜報というと派手な活動を連想しますが、本当の諜報がどういうものか、この映画を見るとよく理解できます。まさにインテリジェンスです。
 暗い映画ですが、「ゾルゲ事件」他を検索して予備知識があると楽しめます。
 
◆B級映画(名画)の楽しみ
 1)SF編 2)西部劇編 3)サスペンス編 4)ファンタジー編 5)邦画編 6)戦争編 7)ラブストーリー編 [NEW] 8)アクション編  9)歴史編 10)ドラマ編
 

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