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笹本稜平 時の渚(文春文庫) [日記(2014)]

時の渚 (文春文庫)
 笹本稜平は、『春を背負って』『還るべき場所』に続いて3冊目。本書は、2001年のサントリーミステリー大賞を受賞した笹本稜平の第2作です。

 ホスピスで暮らす余命半年の老人から、35年前に別れた息子探しを頼まれた私立探偵の物語です。老人は、35年前に妻に死なれ生まれたばかりの赤ん坊を、どこの誰とも分からない婦人に託します。余命半年となって、遺産相続のために探偵に息子探しを依頼したいうことです。

 私立探偵の茜沢は、元警視庁/刑事。殺人事件の犯人によって妻子が轢き殺され、そのために刑事を辞めたという過去があります。警視庁の元上司によって、女子高生がラブホテルで殺害され、遺留品のDNAが件の殺人事件の犯人と一致した情報が茜沢にもたらされ、ストーリーは動き出します。
 茜沢は、老人の息子を探すために35年前に赤ん坊を託した婦人を追い、元上司から知らされた妻子を轢き殺した犯人を追うことになります。

 老人が赤ん坊を婦人に託したのは35年前、殺人事件の容疑者の男も35歳、茜沢もまた35歳。老人の息子、殺人犯、茜沢はどうつながるのか?。プロットは一見シンプルですが、そこは「ゴロさん」(春を背負って)を生み出した作者ですから、どんな人々が登場しどんなテーマを盛り込んでくれるのか?、これが読者の期待でもあります。

 老人が赤ん坊を託した婦人が経営していたという飲み屋/金龍を手がかりに、茜沢は幸恵の存在を突き止め、その本籍地である長野県/鬼無里(きなさ)を訪れます。鬼無里で明らかになったのは、幸恵の意外な過去でした。幸恵は、鬼無里の老舗旅館の嫁であり、旅館に滞在した画家と東京に駆け落ち、旅館は放火によって焼け落ち夫と両親は焼死していたという事実でした。幸恵は何処にいるのか、彼女に託した老人の息子は?、そして茜沢の妻子を轢き殺した犯人は?...というミステリです。

 「ゴロさん」を生み出した作者ですから、優登場人物には優しい目配りが利いています。そうした登場人物に、なかなか姿を現さない本書のキーマン/幸恵を語らせる手法も見事です(本書は、この幸恵の物語でもあります)。
 出だしはシンプルですが、茜沢と殺人犯の運命が交差しあり得ない結末が用意されています。『春を背負って』の読者としては、笹本さんそれはちょっとやり過ぎでしょう、と言わざるを得ません。プロットに凝り過ぎでしょう。第2作ですから仕方がないかもしれません。もっとも、この凝った構成がサントリーミステリー大賞をもたらしたのでしょうか?

タグ:読書
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