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映画 浪速の恋の物語(1959日) BSシネマ [日記(2014)]

浪花の恋の物語 [DVD]
 原作は、近松門左衛門の人形浄瑠璃『冥途の飛脚』(歌舞伎では『恋飛脚大和往来』)。古くからある演目を、中村錦之介、有馬稲子の美男美女を使って現代に甦らそうということです。少し変わっているのは、近松門左衛門(片岡千恵蔵)自身を登場させ、近松が「梅川忠兵衛」の傍観者(狂言回し)となって『冥途の飛脚』を完成させる様子を重ねているところです。近松に始まって近松で終わるところが、この映画のポイントかもしれません。

 話は簡単で、遊女・梅川に惑った飛脚問屋亀屋の忠兵衛は、遊女の身請けのために公金を横領して獄門磔、遊女は「二度の勤め」に出るという、これだけの話しです。近松は、『冥途の飛脚』の他にも同工異曲?の『曾根崎心中』『心中天網島』があります。いずれも現実に起こった「事件」に取材した実録物で、大阪竹本座で人形浄瑠璃として演じらています。商家の男が遊女に入れあげ身を滅ぼす話に、何故これほど人気があったのでしょう。

《曾根崎心中》
 堂島新地、天満屋の女郎お初と醤油商平野屋の手代である徳兵衛。徳兵衛は、叔父に無理矢理婿養子の口を押し付けられ、徳兵衛の継母に結納金が渡ります。その結納金を友人に貸して踏み倒され、詐欺師の疑いがかかり、徳兵衛は身の潔白を明らかにするために相思相愛のお初と心中。

《心中天網島》
 紙屋治兵衛と曽根崎新地の遊女小春。治兵衛は女房おさんがいるにもかかわらず小春に入れあげ、添い遂げられなければ心中という約束までします。小春に身請けの話が起こり、小春の自殺、治兵衛との心中を心配したおさんは、身請けの金を作って治兵衛に渡そうとしますが、おさんの父親は無理矢理ふたりの仲を引き裂きます。おさんを失い身請けで小春まで失うはめになった治兵衛は、それならと小春と心中街道まっしぐら。
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《冥土の飛脚》
 『冥土の飛脚』はもっと分かりやすいです。堅物の忠兵衛が新町の遊女梅川に惚れ、身請けの手付金に為替の金を使い込み、なお三百両の公金横領の果てにふたりは転落真っ逆さま。忠兵衛は捕まって獄門、梅川は元の遊郭に逆戻り。

  いずれの主人公達も、男は商家の旦那、女は遊女です。金で縛られた遊女に惚れた男の悲劇ですが、遊郭は男が女を金で買うという、男女間関係にあっては虚構の世界です。虚構を虚構として遊ぶことを「粋」とする文化が育つ場所です。大半の男はこのルール、それは社会のルールでもありますが、ルールを守って遊ぶわけです。そのルールを踏み外すと、心中なり獄門なりの制裁が待っていることになります。
 徳兵衛にしろ治兵衛にしろ忠兵衛、商家の旦那として社会的なルールを十分に心得た常識人であった筈です。ところがお初、小春、梅川に出会うことで、たがが外れるように自制心は消失します。何故かという問う事自体無意味な、心の闇です。映画で、忠兵衛に茶屋遊びを教えた丹波屋(千秋実)がつぶやきます、遊びを教えたが封印切(為替の金の横領)を教えたつもりはない、と。

 忠兵衛(中村錦之介)は亀屋の娘おとく(花園ひろみ)の養子となることが決まっており、将来を約束されています。にもかかわらず、借金が250両ある梅川に惚れ、店の金に手を付け、為替の金300両を使って梅川を身請けします。小豆島の豪商槌屋(進藤英太郎)と梅川を張り合い、男の意地で公金に手を付けます。映画の中で「金が敵の世の中」という科白が何度も登場しますが、そんなことは当然で、横領の果てに何が待っているかは忠兵衛は知っているはずです。「にもかかわらず」、忠兵衛は現世を捨てて梅川を選択します。梅川が絶世の美女、心優しい天女であるかはどうでもいいことで、忠兵衛は己の心に巣食った「魔」を選択するわけです。

 近松門左衛門が生きた元禄の浪速にも、このぎりぎりの選択があり、ほとんどの庶民派「魔」を捨て現実を選択した筈です。現実を選択した、選択せざるを得なかった「悔い」と安堵感の確認のために、人々は竹本座で『冥途の飛脚』を見て涙を流すわけです。つまり、人は芝居に起こり得たかも知れない自分の人生の「魔」を封じ込めるわけです。

 でお薦めかというと、どうでしょう?。梅川の有馬稲子のはかなさは一見の価値ありかもしれません。近松の世話物の映画化は、『曾根崎心中』(増村保造)と『心中天網島』(篠田正浩)があります。こちらも見てみます。
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監督:内田吐夢
出演:中村錦之介 有馬稲子 片岡千恵蔵 田中絹代 花園ひろみ 進藤英太郎

タグ:BSシネマ
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