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船戸与一 蝦夷地別件 (上) [日記(2014)]

蝦夷地別件〈上〉 (小学館文庫)
 天明八年(1788)、北海道厚岸町、国後、択捉、イルクーツクを舞台に、アイヌ蜂起「クナシリ・メナシの戦い」を描いた冒険小説です。
 冒頭、救国ポーランド貴族団の没落貴族が登場し、乗組員をそそのかして船長を殺害します。どう展開するのかと読み進むと、なるほど、ポーランド分割などのペテルブルグの政治がからんで、さすが船戸与一、スケールを感じさせる小説です。

 ポーランド貴族は、祖国をロシアの侵略から救うため、蝦夷地で被抑圧民族アイヌに反乱を起こさせようと企みます。ロシアの目を極東に向けさせることでヨーロッパでのロシアの南下政策を回避し、ポーランド分割を阻止しようということです。貴族は最新式の銃300挺で蝦夷のアイヌの蜂起を支援し、この支援に応えるのが国後のアイヌ・ツキノエ、セツハヤフ。蜂起の目撃者に、臨済宗の僧・洗元、天台宗の僧・静澄、御家人の息子・葛西政信を加え、松前藩、幕府を相手に「クナシリ・メナシの戦い」が準備されます。

 当時の蝦夷は、松前藩の支配下にあり、米の採れない藩は
 
漁場およびアイヌとの交易地域である商場(場所)を設け、そこでの交易権を知行として家臣に分与する(wikipedia)
 
場所請負制を採っています。この漁場、商場の運営を商人に任せ、運上金を得ることによって松前藩は成り立っているという仕組みです。この請負制の元で、アイヌは商人に搾取され、小説で描かれるように、鮭百匹で米八升の交換レートが、百五十匹に釣り上がるなどの横暴がまかり通っています。また、アイヌの女性が和人の人足に犯され、償いを求めた夫は人足達によって腕を折られるエピソードが描かれます。請負商・飛騨屋の厚岸支配人は14歳のアイヌの娘を使用人兼妾としているように、当時の蝦夷は支配・被支配がはっきりした土地だったようです。
 そして、国後のアイヌ・ツキノエ達によって、蝦夷から和人を追放する蜂起計画が練られることとなります。

  洗元はアイヌ部落に療養所を作る目的を持って蝦夷に来たのですが、シニカルな僧・静澄と、ブラっと蝦夷に来たと言う御家人の次男坊・葛西政信の目的は依然謎のままです。一方、ロシアでは銃300挺の手配が困難となり、舞台は厚岸から国後に移ります。アイヌの蜂起はどうなるのか?、静澄と葛西政信の真の目的とは何か?、イヤ面白いです。

 『蝦夷地別件』を読んでいると、白人のインディアン迫害を連想します。日本は単一民族だと教わってきたのですが、こういう歴史もあったのですね。そう言えば、坂上田村麻呂の「蝦夷征伐」というのも、東北のアイヌ民族を征服駆逐する史実です。歴史は勝者によって作られ、消えた敗者の歴史はフィクションが埋めるということのようです。

 中下巻に続く。

タグ:読書
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