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映画 白いカラス(2003米独仏) [日記(2015)]

白いカラス Dual Edition [DVD]
 原題、The Human Stain。
 地味な映画に、アンソニー・ホプキンス、ニコール・キッドマン、エド・ハリス、ゲイリー・シニーズと出演陣の豪華な映画です。
 白い肌を持って生まれた黒人の物語です。The Human Stain(染み、傷)という原題に「白いカラス」という邦題は、映画の内容を的確に表していますが、直接過ぎて抵抗もあります。

 古典学の教授で学部長のコールマン(アンソニー・ホプキンス)は、講義に出席しない学生を‘spook(幽霊)’と呼んだために大学を辞めることとなります。spookという言葉には、黒人に対する侮蔑的な意味があり、人種差別だというわけです。この何でもない言葉の問題に過敏に反応したことに、コールマンの秘密が隠されています。
 職を失い妻にも先立たれたコールマンの孤独な生活に、ふたりの人物が関わりを持つようになります。ひとりは小説家のザッカーマン(ゲイリー・シニーズ)、もうひとりが郵便局のアルバイト・フォーニア(ニコール・キッドマン)。この映画は、ザッカーマンが描くコールマンとフォーニアの物語なのです。

 映画は、コールマンの現在と過去の二重構造で展開します。コールマンは白人の婚約者を自宅に招き母親に紹介しますが、黒人であるため彼女を失います。読書家の父親も列車の食堂のボーイにしか就くことが出来ず、コールマンは親兄弟を捨て、黒人差別のアメリカ社会でコールマンは白人として生きる決意をします。
 この映画を「人種差別」の面からだけ捉えると、たぶん面白くありません。白い肌を持って生まれコールマンは、黒人として生きても黒人社会の中で差別を受ける筈です。社会は、その外見で人を判断し、人間は外見では無いという建前は通用しません。黒人としても白人としても生きることが出来ない、人種という枠からハミ出してしまった人間の悲劇です。

 このどちらの側にも就くことが出来ないという「コウモリ」性は、白人、黒人の問題に限りません。
 外見で人を判断する社会では、発言、行動を含む外見を飾ることによって、本心を隠し自身を偽ることができます。多かれ少なかれ、我々は他人に対して自己を偽って生きているわけです。「嘘」と言い換えてもいいでしょう。本当の自分と偽りの自分に折り合って生きていることになります。ところが、この折り合いのつかない状況が発生したところにドラマが生じます。引き裂かれる自己と救済のドラマです。

 一方フォーニアは、継父から性的暴力を受け14歳で家出。結婚したものの、ベトナム戦争のPTSDのため暴力を振るう夫(エド・ハリス)とは離婚、外出中に火災で子供を亡くし自殺を図ったという過去を背負っています。
 この孤独なふたりが出会って恋に落ちます。と書きたいですが、コールマンは60歳を越えた?老人、フォーニアは34歳。普通の恋ではありません。sexを核とした男女関係で、コールマンはまぁ老らくの恋でしょうがフォーニアは醒めています。コールマンがバイアグラに頼っているということも、虚飾のひとつで、白人を装った様に若さを装うわけです。

 そもそもフォーニアが何故コールマンと関係を持つようになったのか、その辺りはあいまいです。継父から性的暴力を受けていますから、逆に父親に近いコールマンにあるべき父性を求めたのかもしれません。あるいは孤独な魂が惹かれあったのかも知れません。
 フォーニアは、朝になって顔を合わすのは嫌だとコールマンを夜中に追い出しています。フォーリアは「行動は思考の敵」とうそぶき仕事を3つも掛け持ちし、何も持ちたくないと質素な生活を送っています。これは、フォーニアが自分というものに踏み込めない、踏み込みたくない現れです。

 突然にカラスが登場。鳴くことを忘れたこのカラスは、同類に受け入れられずひとり(一羽)ぼっちという取って付けたようなカラスが登場し、フォーニアはカラスに自己を投影します。彼女は、本心からコールマンを慕っていることに気づき、コールマンもまた「秘密」を告白します。告白ののち、ふたりは穏やかな表情で車に収まっていますから、コールマンの秘密はフォーニアに受け入れられたのでしょう。しかし、めでたしめでたしとはなりません。コールマンとフォーニアは、フォーニアの元夫が仕組んだ交通事故で死にます。
 このエド・ハリスの役どころがはっきりしません。別れた妻に付きまとい、ふたりを未必の故意で死に追いやるわけですが、動機が不明。コールマンと知り合う前からフォーニアにつきまとっていますから、嫉妬ではなさそう。息子をフォーニアに殺されたと考えていますから、復讐になるのでしょうか。原作(フィリップ・ロス『The Human Stain 』)ではどうなっているんでしょう。

 テーマがテーマですから、面白い人には面白いでしょうがあまり万人向きの映画ではありません。

監督:ロバート・ベントン
出演:アンソニー・ホプキンス ニコール・キッドマン ゲイリー・シニーズ エド・ハリス
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