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内田百間 第一阿房列車 [日記(2015)]

第一阿房列車 (新潮文庫)
 「あほう」列車とは人を喰ったタイトルです。本のカバーに登場する百間センセイも、国鉄(JR)の制服姿で口をへの字に曲げて何とも人を喰ったようなお顔です。本の中身? →これも人を喰ったよう話が詰まっています。

 冒頭5ページで何回も広辞苑をひくはめになりました。さすが、漱石の弟子の面目如実。

結滞:脈搏が心臓の病変・衰弱のために不規則となったり、一搏動が脱落したりすること。
掣肘(せいちゅう):傍から干渉して自由に行動させないこと。
春永: (「―に」の形で) いずれひまな時に。また、ゆっくりと。

「春永」とは、まず使いませんね。


【 特別阿房列車 】
なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う。
 百件先生の場合は、どうやら列車に乗ることが目的で、大阪に着いても何もせず旅館に一泊してそのまま東京にひっ返します。お供は国鉄職員のヒマラヤ山系さん。国鉄職員ですから切符の手配はお手のもの。大阪では、旅館の手配まで助役にさせるという大名旅行です。

 こういうのは旅行とは言いませんね。百間先生がヒマラヤ山系さんを連れて、阿房列車を「運行」するというスタイルのエッセイです。元祖「鉄チャン」「乗り鉄」です。「鉄チャン」が、国鉄職員のヒマラヤ山系さんをお供に列車に乗るのですから、これは最高でしょう。

【東北本線阿房列車】
 百間先生は朝が苦手のようで、9時35分上野駅発の列車は早すぎて乗れません。朝の8時9時という時間は、先生の時計には無いそうです。で、盛岡に夕刻について宿で一杯やりたい先生は、12時50分発の準急で福島まででかけ、そこで一泊して午後に9時35分上野駅発の列車に乗り込みます。
 乗り込むと、社内でヒマラヤ山系さんと酒盛りが始まりますから、列車に乗りに行くのか酒を飲むため乗るのかよく分かりません。
 今回も、福島駅の駅長の紹介で旅館に泊まります。「特別阿房列車」でも、大阪に着くや、助役が旅館まで車で案内してくれるという特別待遇でした。
 宿の女中さんに何処へ行くのかと問われ、盛岡に行って青森経由で山形へ行くと答えます。女中さんは呆れて、あんたは奥羽本線を知らないのか?、奥羽本線に乗れば特急なら2時間で行く!。
 万事この調子の「乗り鉄」話が満載です。

 この「阿房列車」は、百間先生の年譜を見ると

1950年(昭和25年) - 大阪へ一泊二日旅行。これをもとに小説『特別阿房列車』執筆。以後『阿房列車』はシリーズ化、1955年まで続き、百閒の戦後代表作となる。wikipedia

とあります。
 先生の同行者「ヒマラヤ山系」こと平山三郎さんは、 日本国有鉄道の機関紙『國鐵』の編纂に従事していたとのことです。ヒマラヤ山系の『阿房列車』の同伴は、出張だったんでしょうか。東京駅出発に際しては見送りがあり差し入れがあり、到着駅では駅長、助役が先生の旅行をサポートします。百間先生はまるで国鉄の賓客です。

 「鉄ちゃん」にはきっと楽しい本でしょうね。「鉄ちゃん」でなくとも、漱石の弟子で芥川龍之介に慕われた明治の高等遊民が昭和に降って湧いたようで楽しめます。『百鬼園随筆』というのもあるので読んでみたいものです。黒澤明は、百間先生をモデルに『まだだよ』を作っています。こちらも見てみよう。
タグ:読書
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Lee

以前から父の本棚にあり気になっていましたが、今度じっくり読んでみたいと思います。
by Lee (2015-05-20 00:43) 

べっちゃん

列車の乗るだけという話ですから、むしろ明治生まれの文人・百閒先生の人柄を楽しむ本でしょうね。読まれたら、blogで感想をお聞かせ下さい。
by べっちゃん (2015-05-20 10:35) 

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