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映画 風にそよぐ草(2009仏伊) [日記(2015)]

風にそよぐ草 [DVD]
 原題、Les Herbes folles(狂った草)。アウシュビッツを画いたドキュメンタリー『夜と霧』で有名なアラン・レネのロマンチック・コメディです。フランスのコメディ映画とアメリカのそれの差は、例えばジャン=ピエール・ジュネとは、ビリー・ワイルダーの差のようなものかもしれません。味付けのブラック・ユーモアの有無と言ってもよさそうです。

 マルグリット(サビーヌ・アゼマ、アラン・レネの奥さん) がひったくりに会い、その財布をジョルジュ(アンドレ・デュソリエ)が拾ったことから映画はスタートします。
 マルグリットとジョルジュの心理描写(と言うか考えていること)がすべてナレーションになっています。ジョルジュは財布に入っていたIDカードから電話番号を探しだし、マルグリットに直接電話しようかと悩んだ末、警察に届けに行きます。ここで大事なのが、ジョルジュは初老の男性だということです。これが若い男性だったら、そもそもこの映画は成り立たない?。対応に出た警官が、マチュー・アマルリック。『潜水服は蝶の夢を見る』『007 慰めの報酬』のマチュー・アマルリックですから、これは何かありそう →何も無かったですが、贅沢な配役です。財布を取りに来たマルグリットに、「今度会わないか?」などとチョッカイを出すあたりは笑わせてくれます。

【ストーカー】
 マルグリットからお礼の電話があり、ジョルジュはこれをキッカケに彼女に会いたそうなことを言いますが、キッパリ断られます。このやりとりを反省したジョルジュは、マルグリットにお詫びの手紙を書き、彼女の住居を調べて投函します。ストーカー行為の入り口です。ジョルジュは自分の生い立ちを綴った手紙を書き、ついにマルグリットの車のタイヤを切り裂くと云う本物のストーカー行為に行き着きます。美人の若い奥さんがいる初老の男が、女性にストーカー行為を仕掛けるという構図です。

 一方、マルグリットは独身の歯科医。真っ赤なアフロヘアの若作りで黄色のスポーツカーを乗り回していますが、当時60歳のサビーヌ・アゼマが演じていますから、もう中年を過ぎた女性です。初老の男が、同年輩の女性にストーカー行為を仕掛けるという話です。
 マルグリットは警察に届け、警察はジョルジュを説教しに行きます。この時、ジョルジュは失業中であり、自分の人生に絶望していることが明かされます。だからと言って言い訳にはなりませんが、ストーカー行為の背景であること事実です。

 ジョルジュのストーカー行為が収まると、マルグリットは物足りなさを覚え、ジョルジュの自宅に電話し彼を追いかけるストーカーに変身します。マグリットは映画館の出口でジョルジュを待ち伏せし、今度はジョルジュがマルグリットのストーカー行為を避難するという逆転劇が起こります。
 このストーカー行為こそが、初老の男女の愛の表現なのでしょう。

【飛行機】
 この映画にはまた、飛行機が象徴として描かれています。マルグリットは、飛行機の免許を持ち、共同ですスピットファイア(戦闘機)を所有しているというマニア。ジョルジュが拾った財布にはこの免許証が入っており、彼もまた昔パイロットの夢を持っていたことをマルグリットへの手紙に書いています。マルグリットが映画館でジョルジュを待ち伏せる挿話がありますが、ジョルジュの見た映画も戦闘機パイロットの映画です。
 失意のマルグリットがスピットファイアのコクピットで一夜を明かします。 マルグリットとジョルジュの恋の象徴が飛行機だと云うことなのでしょう。

 この飛行機がふたりの恋に決着を着けます。マルグリットは、ジョルジュとその妻を自分が操縦するセスナで遊覧飛行に誘います。そしてジョルジュにセスナの体験操縦をさせ、セスナは失速墜落して三人は死にます。
img56210371.jpg セスナのコクピット
 遊覧飛行の前に、ジョルジュはトイレに行ってチャックが閉まらなくなり、ベルトをキツく締めてこれを隠すというシーンが挟まれます。ここでふたりが出会い、固く抱擁してFin(終わり)、但し文字がブリンクしています。映画はなおも続き、この後遊覧飛行となります。
 遊覧飛行で、ジョルジュがセスナを操縦中にチャックが開き、ジョルジュもマルグリットもこれに気を取られ操縦を誤って墜落します。映画では、そういうことになっていますが、ジョルジュに操縦を体験させるということは、横でマルグリットがサポートするということですから墜落はあり得ません。とすれば、これはマルグリットの無理心中ということになります。
 この後、唐突に女の子(ジョルジュの孫)が登場し、
猫になったら、私も猫の餌を食べることが出来るの?
というセリフが入り、2回めのFINとなります。あなたたち(観客)も私(アラン・レネ)の年齢になれば、この恋が理解できるよ、ということなのでしょうか。

 87歳のアラン・レネは『風にそよぐ草』で何を描いたのか?。老境に入った男女の恋を描いたことには間違いないと思います。では何故マルグリットは無理心中を図ったのか?。1回めのfinでふたりの恋は成就していますから、心中する必要も無さそうです。マルグリットは遊覧飛行にジョルジュの奥さんを誘っていますから、奥さんともどもの無理心中です。マルグリットの心中は、「猫になったら、私も猫の餌を食べることが出来る」のでしょうか。

【ここが分からない】
 まぁ全部分からないのですが、
・ジョルジュは警察で書類に名前を書かされますが、この時「気付かれた殺すか?」と考えます(ナレーション)。警官に何を何を気付かれたのか?。
・ジョルジュは、何故か選挙権が無い。執行猶予中?。
・マグリットにコーヒーに誘われた時、何故怒ってコーヒー代を於いて席を蹴ったのか。
・ジョルジュの留守中マルグリットが尋ねた時のこと。帰ってきたジョルジュは、マルグリットを送ってきた彼女に友人を車の中に見つけ唐突にキスをします。

 これは、老人版『俺たちに明日はない』ではないでしょうか。確かに老人には明日がない(笑。それにしても御歳87歳のアラン・レネの意気軒昂な映画です。

監督:アラン・レネ
出演:アンドレ・デュソリエ サビーヌ・アゼマ アンヌ・コンシニ エマニュエル・ドゥヴォス マチュー・アマルリック 


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