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映画 追憶(1973米) [日記(2015)]

追憶 コレクターズ・エディション [DVD]
 原題、The Way We Were 。ラブストーリーの範疇にある映画ですが、政治色の濃い映画です。
 ヒロインのケイティ(バーブラ・ストライサンド )が大学の構内でアジ演説をします。スペイン内戦で政府軍(人民戦線)を支援するソ連を支持する演説ですから、1937年頃の話です。ケイティは東部の大学の共産党活動家で、ストライキを煽動するアジテーションです。ケイティの部屋には、レーニンやスターリンの肖像画が掲げられています。
 アメリカと共産主義の組み合わせはちょっと奇異に感じますが、ゾルゲ事件(1942)には アグネス・スメドレー、 宮城与徳を始め米国共産党(コミンテルン)が関わっていますから、それなりの勢力があったようです。
 但しマイナーであることには変わりなく、ケイティのアジ演説は嘲笑で迎えられます。

 この政治志向の強い女子学生に絡むのが、スポーツ万能で成績優秀なアメリカ青年のハベル(ロバート・レッドフォード)。文学青年でノンポリ、典型的なWASPという雰囲気です。ケイティはユダヤ人ですが、この組み合わせも意味があるのですかね。

 お互いに憎からず思っているこのふたりが、第二次世界大戦末期、偶然に再会したことから ラブストーリーが始まります。ケイティが政治を卒業していれば問題なかったのですが、相変わらずガチガチの政治人間。一方のハベルは小説を出版したノンポリ。ケイティが仕掛けた穴にはまるように、ふたりは恋に落ちます。
 パーティーで政治的的な話題が出ると、ケイティはむきになって自説を展開し、社交を踏み外しひとり浮き上がってしまいます。ケイティは、容姿のコンプレックスの裏返しではなかろうかと思うほど存在感があり、 決して美人ではないバーブラ・ストライサンドのキャスティングは大成功?。ロバート・レッドフォードは、これでラブストーリーの一方を担っているのだろうかと思うほどその存在は希薄。唯我独尊のケイティに引きずられる優男、というのが脚本の指定する役柄であれば、ロバート・レッドフォードの演技は本物です。

 こういうふたりが上手くゆく筈はありません。破綻のために用意されるのが、マッカーシズム。ハベルの小説がハリウッドに売れ、西海岸に行って脚本家となります。1950年代に入るとマッカーシズムの赤狩りがハリウッドを襲い、リベラルな内容のハベルの脚本は書き直しを強要されます。このマッカーシズムに対する処し方がケイティとハベルの亀裂を広げることになります。ケイティは「ハリウッド・テン」に抗議する政治運動を始め、ハベルは映画会社の要請に従って脚本を書き換えます。この事件を契機に結局ふたりは別れることになります。ハベルの浮気もありますが、映画の流れからすると、生き方の異なるふたりが夫婦であること自体に無理があり、離婚は当然の帰結でしょう。

 何年かが過ぎ、ケイティとハベルは街角で再会します。ハベルはハリウッドの延長線上でTVの仕事に就き、ケイティは政治の運動を続け、この時彼女は原爆反対の街頭活動をしています。ケイティが声を枯らして原爆反対を叫びビラを撒く姿で幕。ふたりは、それぞれのThe Wayを取り戻したわけです。

 原題が"The Way We Were"あるように、『追憶』は、ラブストーリーの姿を借りた政治的人間ケイティの信念を貫く物語であり、ハベルの側に立ってみれば、そうしたケイティを伴侶に抱えた男の悲劇?の物語です。ラブストーリー色を押さえてふたりの対立軸を描けば、面白い人間ドラマとなったと思いますが、そうなるとヒットしなかったでしょうね。
 学園紛争が終息しベトナム戦争が終わりにに向かいつつある1973年ならではの映画です。政治の季節の男女には、こうした愛憎劇もまた生まれたのでしょう。

 お薦めかというと、ラブストーリーとしてもドラマとしても中途半端です。

監督:シドニー・ポラック
出演:バーブラ・ストライサンド ロバート・レッドフォード
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