浅田次郎 神坐す山の物語 [日記(2015)]
「見えざるものを見、聞こえざる声を聞く」異能の少年が語る連作怪異譚です。怪異譚といっても、主役は物怪、怪異のたぐいではなく人間であるところが浅田次郎らしいです。
面白いのは、怪異譚には御嶽神社の女性が深く関わっていることです。日露戦争(二百三高地)で戦死した部隊の兵士たちの霊が、たったひとり生き残った戦友を探して御嶽神社に現れるという「兵隊宿」は、祖母イツの体験です。「天狗の嫁」は叔母カムロが六歳の時に神隠しあった事件を自ら語ります。祭礼の雨の夜に御嶽神社に現れた客の側には、ずぶ濡れ若い女が黙って寄り添っている「宵宮の客」は、祖母イツの体験です。「天井裏の春子」で、叔母チトセは狐付きを祓う憑代の役を勤めます。
霊に出会い狐を祓うのは、 験力を持つ祖父や曾祖父、叔父なのですが、この「見えざるものを見、聞こえざる声を聞く」祖母や叔母たちの登場は、「妹の力」に依っているように思われます。「古事記」を口述した稗田阿礼は女性だという説もあります。
いつもの浅田節を期待すると、裏切られるかもしれません。
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