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浅田次郎 神坐す山の物語 [日記(2015)]

神坐す山の物語
 「見えざるものを見、聞こえざる声を聞く」異能の少年が語る連作怪異譚です。怪異譚といっても、主役は物怪、怪異のたぐいではなく人間であるところが浅田次郎らしいです。
 
 舞台は青梅市にある御嶽神社。御嶽神社は太古から続く神社で、山岳信仰の対象として関東一円から参詣者を集め、宿坊30軒を構える一大霊場。神主の先祖は、家康が関東入封を先導した熊野の修験者と言われる十九代続く家柄で、その神主である、叔父、祖父、曽祖父が体験した怪異を、叔母たちが主人公が語るという構図を持っています。

 面白いのは、怪異譚には御嶽神社の女性が深く関わっていることです。日露戦争(二百三高地)で戦死した部隊の兵士たちの霊が、たったひとり生き残った戦友を探して御嶽神社に現れるという「兵隊宿」は、祖母イツの体験です。「天狗の嫁」は叔母カムロが六歳の時に神隠しあった事件を自ら語ります。祭礼の雨の夜に御嶽神社に現れた客の側には、ずぶ濡れ若い女が黙って寄り添っている「宵宮の客」は、祖母イツの体験です。「天井裏の春子」で、叔母チトセは狐付きを祓う憑代の役を勤めます。
 霊に出会い狐を祓うのは、 験力を持つ祖父や曾祖父、叔父なのですが、この「見えざるものを見、聞こえざる声を聞く」祖母や叔母たちの登場は、「妹の力」に依っているように思われます。「古事記」を口述した稗田阿礼は女性だという説もあります。

 いつもの浅田節を期待すると、裏切られるかもしれません。 


タグ:読書
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