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映画 チャイルド44 森に消えた子供たち(2015米) [日記(2018)]

チャイルド44 森に消えた子供たち [DVD]  トム・ロブ・スミスの『チャイルド44』の映画化です。原作を読んだ当時、監督はリドリー・スコットという情報でしたが、今見ると監督ではなく制作に回っています。

 邦題の「森に消えた子供たち」は、微妙です。1930年代のウクライナの大飢饉で、森に逃げ込んで飢えをしのいだ子どもたちを指し、1953年に殺されて森に遺棄された子どもたちを指すのでしょうが、ストーリーの中核はスターリン体制下で政治警察が暗躍し密告が横行する世界です。

 スターリン時代には、無理な工業化推進と農作物の不作のため数百万の餓死者を出し、体制維持のために数10万名にものぼる粛清(処刑)が行われたといいます。『チャイルド44』は、こうした時代を背景に、政治警察MGB(後のKGB)の捜査官レオが描かれます。

 レオ(トム・ハーディ)は、1945年のベルリン解放で国会議事堂にソ連の旗を立て、その写真が新聞で報道されたことによって一躍英雄となります、ソ連得意のプロパガンダです。この時一緒にいた、アレクセイ(ファレス・ファレス)、ワシーリー(ジョエル・キナマン)がストーリーの展開に関わってきます。英雄はアレクセイでもワシーリーでもよかった筈ですが、たまたまレオが旗を持ったために英雄となったわけです。この心理的確執がその後のレオに影を落とすことになります。
 大戦後、レオ、アレクセイ、ワシーリーの三人は政治警察MGBに入ります。スターリン体制下の政治警察ですから、やりたい放題。確たる証拠も無しに反体制派を捕らえては裁判もなしに銃殺するという、恐怖政治の尖兵です。

 レオ、アレクセイ、ワシーリーの三人が関わる、ふたつの事件が起きます。スパイ容疑で獣医(ジェイソン・クラーク)が逮捕、銃殺され、獣医はレオの妻で小学校教師のライーサ(ノオミ・ラパス)が西側のスパイであることを自白します。逮捕の時、ワシーリーは獣医を匿った農民夫婦を子供の前で勝手に銃殺し、レオの怒りを買い殴られます。獣医の取り調べにあたったのはワシーリーですから、ベルリンでの確執とレオに殴られたことの復讐です。
 もうひとつが、アレクセイの息子が殺された事件。アレクセイの息子は線路脇で裸の死体で発見されます。明らかに殺人事件ですが、「(共産主義国という)楽園に殺人は無い」とするスターリンの教条によって事件は事故となります。アレクセイは殺人だと主張しますが、事を荒立てるとアレクセイの身に災いが降りかかるため、レオは告発を思い止まらせます。

 レオは妻のスパイ容疑を晴らすために捜査しますが、証拠は出てきません。MGBに疑われれば無実はあり得ないため、レオの父親は「レオと両親の3人が死ぬか、ライーサが死ぬかの選択」だと言い、レオにライーサの告発を勧めます。スターリン体制下では、生き残るためには身内を売るしかないわけです。レオは妊娠した妻を売らなかったため、地方のヴォルクスの民警に左遷され、ライーサは同地の小学校の掃除夫となり、ワシーリーはレオの後任に昇格します。

 前半ではスターリン体制とそこに暮らす恐怖が描かれました。後半では、44人の子供が殺された殺人事件を捜査するレオと、ライーサが描かれます。

 ヴォルクスでも拷問痕のある子供の絞殺死体が発見されます。死体の状況はアレクセイの息子と同じであり、同一犯の犯行と考えたレオは、警察署長ネステロフ(ゲイリー・オールドマン)とともに捜査を開始します。アレクセイの息子の事件を闇に葬ったレオが、何故今になって捜査に乗り出すのか?。たぶん、ライーサに結婚にまつわる真実を告げられたからだと思われます。MGBの捜査官であるレオに求婚されたライーサは、断ればどんな報復が待っているか分からないため、嫌々受け入れたと告白します。今でも愛していないし、レオが恐ろしいと。また、妊娠は嘘であり、妊娠していると言えばレオは自分を売らないだろうと考えた、とも告白します。ライーサの告白によって、また妻を売らなかったことで左遷されたことで、レオは体制に疑問を抱いた(確信した)のでしょう。この国で真相を求めるのは危険だ、粛清されるというライーサに、おれたちはもう死んでいると答える辺りにもそれが伺えます。捜査を渋るネステロフに、我々が党の言いなりで真相を闇に葬っていたら、犯罪への荷担だ、犠牲者が増え続けると説得しています。
 レオとライーサはモスクワで捜査を続け、ネステロフは、同じ手口の子供の殺人が43件(アレクセイの息子を含めて44件)あったことを見つけ出します。怖いのは、この44件について、いずれも事故か犯人が逮捕されるかで解決していることです。

 ワシーリーはヴォルクスのMGBにライーサを逮捕させ、モスクワに呼び戻して元の職場に復帰させてやるから一緒に住もうなどと、執拗にレオへの復讐を続けます。拒否するライーサを、MGBの捜査官使って暴行する有様。結局、ワシーリーのこうした復讐が、逆にラーサとレオの絆を強くするわけで、(原作同様)この辺りもう少し突っ込んで描いてほしかった。

 レオとネステロフは犯人を突き止めますが、ミステリとしては平板。連続殺人事件を解決したレオはMGBに帰り咲きます。レオを迎えた上司の言葉は、今はもう新体制だ。『チャイル44』は、スターリンが死んでフルシチョフが取って代わる1953年を舞台にしていますから、こうしたセリフが生きてきます。ところが、連続殺人犯については、2年間捕虜収容所にいた、怪物として西側から送り込まれた、と結論づけます。スターリンからフルシチョフへと指導者は変わっても、ソ連の実態は何も変わっていないわけです。

 Wikipediaによると、『チャイルド44』の評価は、
「アクション映画を得意とする監督のダニエル・エスピノーサは大きな物語と社会的な題材のなかで身動きが取れなくなっている」と指摘し、「本作は時折、『ドクトル・ジバゴ』と『羊たちの沈黙』の統合失調症的な混合に化している」
だそうですが、言い得て妙です。原作が面白かっただけに、残念な結果です。続編の『グラーグ57』の映画化は無さそうです。映画より原作がお勧めです。

監督:ダニエル・エスピノーサ
原作:トム・ロブ・スミス
出演:トム・ハーディ、ゲイリー・オールドマン、ノオミ・ラパス、ジョエル・キナマン、ジェイソン・クラーク、ヴァンサン・カッセル、ファレス・ファレス

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