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西村淳 面白南極料理人(2011新潮文庫) [日記(2018)]

面白南極料理人 (新潮文庫)

 映画が面白かったので、原作を読んでみました。南極には昭和基地以外にも基地があるんですね、知らなかった。しかも昭和基地から1000kmも離れた内陸、標高3800mの高地にある「ドームふじ基地」で越冬する9人の観測隊員の話です。富士山より高い標高3800mですから、酸素は平地の8割ほど、水は沸騰せず、平均気温はマイナス51℃。ペンギンもアザラシも、ウィルスさえ生存できない文字通りの極地で人間が1年間暮せばどうなるのか?というドキュメントです。
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 著者は海上保安庁から派遣された調理担当。従ってタイトルの如く、この極寒の極地の生活を「食」という視点で切り取ります。どんな環境でも「食べる」ということは生存の第一の条件ですから、当を得た視点です。ナルホドと思ったのは食材。すべてが凍りつく南極ですから、生鮮食料品は持って行けません。解凍しても味が変わらない冷凍食品を探し出し、カイワレ、レタスなど生野菜は自家栽培。屋外の写真が数多く掲載されていますが、マイナス50℃ではシャッターも凍りつくと思うのですが、南極用に作られた特殊なカメラを使ったのでしょう。それほどに彼の地は過酷です。

 9人の隊員は、
金ちゃん:副隊長気象庁派遣、無口。
本さん:国立極地研究所派遣の雪氷学者、酒豪。
ひらさん:国立極地研究所派遣の気象学者、「平沢ベーカリー」社長。
リンさん:大学の大気学者、風呂嫌いの別名バイキンマン、BAR「りんさん」のママ。
浪速の兄ちゃん:奈良女子大派遣の本さんのサポート、関西弁。
ドック:北海道の市立病院の麻酔医。南極でジョギングする体力勝負のドクター。
主任:自動車会社派遣の車両担当、寒さに弱い。
盆:通信社派遣の通信機材担当、サブシェフ、広島カープファン。
大将:海上保安庁派遣の調理担当、『面白南極料理人』の著者。

 研究者4人にサーポート5人という構成で、本業が成り立つためにはサポートいかに大事かということでしょう。ドックの46歳を筆頭に30代~40代のオッサンの集団です。日本に帰れば分別のある大人が、娯楽もない極地に1年以上閉じ込められると、オッサンが「少年」に変わります。パン屋やBARを開業し、雪原でソフトボール、バーベキューを楽しみ、何かといえば宴会を開き、学生寮の共同生活みたいなものです。それぞれがプロとして参加していますが、自分のテリトリに安住していればいいわけではなく、交代で風呂掃除にトイレ掃除は当番制、時には観測の手伝いに建設作業と駆り出されます。大好きな宴会も調理担当ひとりで準備できるわけでもなく、全員が調理人と客の二役をこなさねばなりません。

 著者の西村さんは基本的にイイ人ですから、この共同生活を面白おかしく書いていますが、閉鎖空間に男9人の共同生活ですからかなりヤバイ場面を多々あったようです。そのひとつが水。すべてが凍りつくドーム基地では、水は作るんですね。材料は無限大にある雪と氷。これを切り出して溶かして水にするわけですが、空気を含んでいるため溶かせば体積は20%となるそうで、毎日この水作りの重労働に全員が参加します。節水が不文律で、シャワーを贅沢に使い制限のひとり7リットルを超える不届き者はどうなったのか?。ラジエターが凍りつき使用不能となった車両担当はどんな制裁を受けたのか?。9人とはいえ人間の集団ですから、集団生活に馴染めない人もいるわけですねぇ。

 この本のメインである「料理」です。調理担当・西村さんの創意工夫と努力には頭が下がりますが、なんと言ってもその食材の豪華なこと。伊勢海老、カニ、フォアグラには驚きませんが、6kg20万円の松阪肉の登場にはびっくり(発注ミスだそうです)。酒も常用(飲)は月桂冠のようですが、ドンペリまで...。この本が出た後、所管の文科省の査定は厳しくなったのでは、と心配します。酸素は平地の8割、平均気温はマイナス51℃ですから、この程度の贅沢は許されるでしょう。本書のメニューを見れば、食いしん坊ならオレも行きたい!、ですね。
 猛暑の夏にはお薦めの一冊です、特に食いしん坊には。

タグ:読書
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コメント 2

ryang

映画もやっていましたねぇ^^
本も面白そうです。
by ryang (2018-08-29 00:58) 

べっちゃん

当たり前ですが、ノンフィクション度は本、エンタメ度は映画です。どっちが面白い →難しい。
by べっちゃん (2018-08-29 08:04) 

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