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柚月裕子 孤狼の血(2015角川文庫) [日記 (2021)]

孤狼の血 「孤狼の血」シリーズ (角川文庫) 映画孤狼の血の原作です。映画を観ているので、ストーリーも結末も分かった上で原作を読んで面白いかというと →これがけっこう面白い。捜査の為には脅し、暴力、収賄と何でもありの悪徳刑事・大上(映画では役所広司)と、「それは違法捜査でしょう、服務規律違反です」と諌める新米刑事・日岡(映画では松坂桃李)のコンビネーションの面白さです。
 
 大上は、刑事二課の仕事は何かと日岡に問い、日岡は「暴力団を壊滅させることです」と答えます、
 
くくっと、大上は喉の奥で笑った。「お前、自分の飯の種を自分で根こそぎ摘むんか。暴力団がのうなってしもうたら、わしらおまんまの食い上げじゃろうが」
屁理屈だ。日岡は唇を噛んだ。「だいたいのう」、と大上は煙草をふかしながら言葉を続ける。
「世の中から暴力団はなくなりゃァせんよ。人間はのう、飯ィ食うたら誰でも、糞をひる。ケッ拭く便所紙が必要なんじゃ。言うなりゃあ、あれらは便所紙よ」
 
 ヤクザは社会の底辺に溜まった「澱、オリ」だと言います。さすがに映画ではこうしたセリフありません。
 
わしらの役目はのう、ヤクザが堅気に迷惑かけんよう、目を光からしとることじゃ。あとは・・・やりすぎた外道を潰すだけでえ。
 
 「付いて来い」と言われて日岡が後ろに付き従うと、後輩は先輩の前を歩けと大上に叱られます。
 
ええか、、(刑事ニ)課のけじめはヤクザと同じよ。平たく言やあ、体育会の上下関係と一緒じゃ理屈に合わん先輩のしごきや説教にも、黙って耐えんといけん。これにはのう、まっとうな理由があるんで。ヤクザっちゅうもんはよ、日頃から理不尽な世界で生きとる。
上がシロじゃ言やあ、ク口い鴉もシロよ。そいつら相手に闘うんじゃ。わしらも理不尽な世界に身を置かにゃあ……のう、極道の考えもわからんじゃろが。
 
ヤクザの世界では、下っ端は「弾除け」として前を歩くことがキマリで、ヤクザを取り締まる刑事もヤクザでなければならないというのです →理屈合ってますw。で、大上がタバコを取り出すと、日岡がサッとライターで火を付けるわけです、あのヤクザ映画でお馴染みの所作です。
 
 したがって大上の捜査は脅迫、暴力、収賄と何でもあり。取り調べで拷問を振るう大上にヤクザが言います、
 
「あんた、狂うとる……」唇がわなわなと震えている。
大上は膝を割ってしゃがむと、吉田の顔を見下ろした。
「おお、狂うちょるよ。わしは捜査のためなら、悪魔にでも魂を売り渡す男じゃ。お前がしゃべらんでものう、お前が密告した言うて、後で加古村(敵対するヤクザ組織)に吹き込むこともできるんで」
 
こうした大上というキャラクターを彩る挿話は、セリフより活字で読むほうが面白いです。そんなジャンルがあるかどうか知りませんが「極道小説」です。極道と対峙する極道刑事の話ですが、途中から日岡を主人公とした警察小説に入れ替わります。日岡は、大上を潰すためにに広島県警・監察が送り込んだスパイ。小説の語り手であった日岡は実は「信頼できない語り手」で、スーパー刑事がヤクザ組織を潰す構造をひっくり返します。日岡が体制のスパイではストーリーが成り立たないのでもうひとヒネリ、この辺りが面白いところです。
 
 日岡を主人公とした続編『凶犬の眼』『暴虎の牙』があるようですから、シリーズは日岡のビルドゥングスロマンのようです。大上のキャラクターで持っている小説ですから、大上を外して成立するのかどうか?。
 緑陰エンタメ小説としてはお薦めです。作者は女性なんですねぇ。
 映画『孤狼の血』の原作です。(映画を観ているので)ストーリーも結末も分かった上で原作を読んで面白いかというと →これがけっこう面白い。捜査の為には脅し、暴力、収賄と何でもありの悪徳刑事・大上(映画では役所広司)と、「それは違法捜査でしょう、服務規律違反です」と諌める新米刑事・日岡(映画では松坂桃李)のコンビネーションの面白さです。
 
 大上は、刑事二課の仕事は何かと日岡に問い、日岡は「暴力団を壊滅させることです」と答えます、
 
くくっと、大上は喉の奥で笑った。「お前、自分の飯の種を自分で根こそぎ摘むんか。暴力団がのうなってしもうたら、わしらおまんまの食い上げじゃろうが」
屁理屈だ。日岡は唇を噛んだ。「だいたいのう」、と大上は煙草をふかしながら言葉を続ける。
「世の中から暴力団はなくなりゃァせんよ。人間はのう、飯ィ食うたら誰でも、糞をひる。ケッ拭く便所紙が必要なんじゃ。言うなりゃあ、あれらは便所紙よ」
 
 ヤクザは社会の底辺に溜まった「澱、オリ」だと言います。さすがに映画ではこうしたセリフありません。
 
わしらの役目はのう、ヤクザが堅気に迷惑かけんよう、目を光からしとることじゃ。あとは・・・やりすぎた外道を潰すだけでえ。
 
 「付いて来い」と言われて日岡が後ろに付き従うと、後輩は先輩の前を歩けと大上に叱られます。
 
ええか、、(刑事ニ)課のけじめはヤクザと同じよ。平たく言やあ、体育会の上下関係と一緒じゃ理屈に合わん先輩のしごきや説教にも、黙って耐えんといけん。これにはのう、まっとうな理由があるんで。ヤクザっちゅうもんはよ、日頃から理不尽な世界で生きとる。
上がシロじゃ言やあ、ク口い鴉もシロよ。そいつら相手に闘うんじゃ。わしらも理不尽な世界に身を置かにゃあ……のう、極道の考えもわからんじゃろが。
 
ヤクザの世界では、下っ端は「弾除け」として前を歩くことがキマリで、ヤクザを取り締まる刑事もヤクザでなければならないというのです →理屈合ってますw。で、大上がタバコを取り出すと、日岡がサッとライターで火を付けるわけです、あのヤクザ映画でお馴染みの所作です。
 
 したがって大上の捜査は脅迫、暴力、収賄と何でもあり。取り調べで拷問を振るう大上にヤクザが言います、
 
「あんた、狂うとる……」唇がわなわなと震えている。
大上は膝を割ってしゃがむと、吉田の顔を見下ろした。
「おお、狂うちょるよ。わしは捜査のためなら、悪魔にでも魂を売り渡す男じゃ。お前がしゃべらんでものう、お前が密告した言うて、後で加古村(敵対するヤクザ組織)に吹き込むこともできるんで」
 
こうした大上というキャラクターを彩る挿話は、セリフより活字で読むほうが面白いです。そんなジャンルがあるかどうか知りませんが「極道小説」です。極道と対峙する極道刑事の話ですが、途中から日岡を主人公とした警察小説に入れ替わります。日岡は、大上を潰すためにに広島県警・監察が送り込んだスパイ。小説の語り手であった日岡は実は「信頼できない語り手」で、スーパー刑事がヤクザ組織を潰す構造をひっくり返します。日岡が体制のスパイではストーリーが成り立たないのでもうひとヒネリ、この辺りが面白いところです。
 
 日岡を主人公とした続編『凶犬の眼』『暴虎の牙』があるようですから、シリーズは日岡のビルドゥングスロマンのようです。大上のキャラクターで持っている小説ですから、大上を外して成立するのかどうか?。
 緑陰エンタメ小説としてはお薦めです。作者は女性なんですねぇ。

タグ:読書
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