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テッド・チャン あなたの人生の物語 ② (2003早川文庫) [日記 (2022)]

続きです
あなたの人生の物語フェルマー.jpg
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ヘプタポッド              表意文字(映画『メッセージ』)
フェルマーの原理(2)
 「フェルマーの原理」は「最小時間の原理」とも言うそうで、wikipediaでは「光は光学的距離が最短になる経路、すなわち進むのにかかる時間の停留点になる経路を通る」と説明されます。
  ・A→Bに最短時間で行くためには、どの経路をたどれば良いか?
  ・但し、光の速さは空気中と水中で違い、水中の方が遅い
で、光は「考える」わけです、

A→X→Bは水中の距離は短いが空気中の距離は長い、反対にA→Y→Bは空気中の距離は短いが水中の距離は長い。そこで、空気中と水中での速度を考えてA→C→Bが選択されます。

ヘプタポッドは、すべての事象において、A→CとC→Bを同時に認識しBという未来も認識しているというわけです。ツッコミどころはありますが、これはレトリックなので、ヘプタポッドは未来が予測できると素直に理解しましょうw。

あなたの人生の過去、現在、未来
 ルイーズは、ヘプタポッドと彼等の表意文字で会話することで、彼らの思考体系を身に着けます。両親が聾唖者である子供は、手話で物を考えるという例が引かれています。ルイーズはヘプタポッド語を使うことによって、ヘプタポッドの様に未来を知る様になります。

未来を知ることは、ほんとうに可能なのか? たんに未来を推測するというのではない。さきになにが起こるかを、完全なる確信と明確な詳細をもって知ることは可能なのか?・・・物理学の基本法則は時間対称的であり、過去と未来に物理的差異はない。
そうであるなら、なかには「理論的にはイエス』 と言う者もいるだろう。だが、より現実に則した話となれば、たいていの者は、自由意志があるからということで"ノー」と答えるだろう。

 未来が分かれば人は未来を変えようと行動するはずです。ルイーズは、合目的未来というものは「受け入れる」べき(逃れられない)事象なのだと理解します。ヘプダポッド的世界では時間という概念は無く、過去、現在、未来を一体の事象として認識する「悟り」の世界のようなもの。ルイーズはヘプダポッドと出会うことによって、この「悟り」を獲得したのです(つまり未来が見える)。
 ルイーズは、生まれてくる娘が25歳で遭難死しする未来を知っています。「こどもはつくりたいかい?」と問う夫(たぶんゲーリー)に、わたしはほほえんで、こう答える、「ええ」。

 娘が生まれ25歳で死ぬ未来が存在するのであれば、娘を産まない、娘の人生を変える、権利はないとルイーズは考えます。それはルイーズの人生ではなく「あなたの人生の物語」だからです。人は誰も死ぬ運命を抱えています。「子供の人生の物語」のために、死ぬと分かっている子供をそれでも産むのです。

 しかしながら、「過去、現在、未来を一体の事象として認識する」こと、時間を越えた認識など、それこそ認識の外です。こういうSFもあり、と楽しむ他はありません。未消化で、感想にもなっていませんがw。

タグ:読書
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