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再読 浅田次郎 珍妃の井戸(1997講談社文庫) [日記 (2022)]

珍妃の井戸 (講談社文庫)
珍妃の井戸.jpg
蒼穹の昴』第二部。珍妃は光緒帝の側室で、義和団事件の混乱に乗じて紫禁城の井戸に投げ込まれて殺された悲劇の皇妃です。犯人は西太后、袁世凱など取り沙汰されていますが、未だ謎。この殺人事件に浅田探偵が挑む歴史ミステリーです。

 戊戌の政変から4年後の光緒28年(1902)鎮国公・載沢の舞踏会で、ミセス・チャンが英国海軍のソールズベリー提督の耳に囁きます。珍妃の死は実は暗殺だった、彼女は何者かに殺されたのだと。ソールズベリーは、このことをプロシア貴族のドイツのヘルベルト・フォン・シュミット大佐に伝え、露清銀行総裁セルゲイ・ペトロヴィッチ公爵、東京帝国大学の支那学教授・松平忠永子爵 を加えた4人が真相の究明に乗り出します。

 珍妃が暗殺されということは光緒帝が暗殺される可能性があり、皇帝が暗殺されれば義和団事件を越える混乱が予測されます。混乱は、大清帝国という利権をめぐる列強の均衡が一挙に崩れる危険を孕み、皇帝暗殺は英独露日の立憲君主制の根幹を揺るがしかねない事件です。4人の貴族は危機回避ために事件の真相解明に乗り出します。事件の前後の出来事は、こうです。

1897:光緒帝、隆裕、瑾妃、珍妃を娶り親政を始める
1898:戊戌の変法を始めるが、西太后、袁世凱のクーデターで失敗(戊戌の政変)。光緒帝と珍妃は幽閉される。
1899:愛新覚羅溥儁を皇太子にするも3日で廃位
1900:義和団事件
 4月、義和団北京に入る
 6月、清朝が列強に宣戦布告
 8月、八カ国連合軍が北京に進攻、西太后、光緒帝は西安に逃れる、珍妃が殺害される
 9月、義和団鎮圧
1901:北京議定書

トーマス・バートンの証言(NYタイム記者)
 珍妃と彼女を取り巻く状況が解説され、「珍妃は慈悲深いみ仏様の怒りに触れて、お命を召し上げられた」と。蘭琴に聞けば分かるだろうとバトンが渡されます。

蘭琴の証言(光緒帝側近の宦官)
 蘭琴は暗殺について何も知らず、もし暗殺であれば袁世凱が関わっている可能性があると証言します。袁世凱は珍妃に横恋慕しており、光緒帝に復讐するために殺したと推理します。

袁世凱の証言(北洋軍司令官、戊戌の政変の裏切り者)
 続いて袁世凱。8カ国連合が迫り紫禁城に砲撃を加えてきたため、西安に逃れようと(蒙塵)西太后以下が集まります。珍妃殺害の現場に居合わせた人物は、西太后、光緒帝、皇后、珍妃の姉の瑾妃及び同治帝の未亡人珣貴妃、瑜貴妃、瑠貴妃、及び袁世凱、栄禄と春雲。動機は嫉妬で手を下したのは栄禄。珍妃も西安に連れていこうと幽閉場所から連れだします。瑾妃は、帝に愛される珍妃に嫉妬していたといいます。戊戌の政変で幽閉され病み衰えた足手まといの珍妃を殺してしまえと。

瑾妃の証言(珍妃の姉、光緒帝の側室)
 袁世凱は現場にいなかった。珍妃を殺せと言ったのは光緒帝の皇后の隆裕。隆裕は西太后の姪で皇后ですが光緒帝には珍妃を溺愛したため。珍妃に嫉妬していた、これが殺害の動機だと言います。隆裕は長身で浅黒い駱駝顔、瑾妃は丸々と太ったブス。一方の珍妃は、美人で戊戌の変法で光緒帝に助言が出来る程の教養がある、誰だって珍妃を選択するわけです。珍妃の命乞いをしたのは瑾妃付きの宦官・劉蓮焦だけ、劉蓮焦に聞いてみればハッキリすると瑾妃は言います。

劉蓮焦の証言(瑾妃付きの宦官)
 劉蓮焦は、瑾妃の証言は隆裕を陥れる偽証であり、犯人は西太后の甥で光緒帝の従兄弟の義和団に加わった載漪と3日で皇太子を降ろされ溥儁親子だと証言します。光緒帝に帝位を取られた恨みだというわけです。載漪と溥儁は義和団とともに紫禁城に乱入し、さすが光緒帝を殺すわけにもいかず恨みの矛先を珍妃に向けたというのです。

溥儁の証言(西太后の甥で光緒帝の従兄弟・載漪の息子)
 珍妃は西太后から死を賜り、自ら井戸に身を投げたというのです。幽閉されて会えなかった光緒帝にも会うことができ、思い残すことは無い。「魂の安らぐ場所は満州草原にしかない」と言って井戸に身を投げたというのです。疑うなら光緒帝に聞いてみろ、と。珍妃を殺したのはやはり西太后?。

光緒帝の証言
 で、4人は光緒帝に会うわけです。光緒帝が言うには、西太后を始め「珍妃を殺せ」などとは誰も言わなかった。珍妃を西安に連れて行くために袁世凱が迎えに 行ったが、時既に遅し。袁の後ろから珍妃を抱えて現れたのは、何と、ソールズベリー提督、シュミット大佐、ペトロヴィッチ公爵、松平忠永子爵の4人。

おまえらはみな、それぞれの首に何十もの宝珠をかけ、ポ ケットからは翡翠や真珠があふれでていたな。そして顔も服も、奪い犯し殺した支那人の血で、真黒であった。
 それからおまえらは、支那の希いを笑いとばしながら古井戸に寄った。
「豚を殺して、どこが悪い!」
四ヵ国の言葉で口々にそう叫びつつ、おまえらは、ぐったりと力の脱けた珍妃の、両手と両足とを握り、井戸の奥深くへと、沈めた。

 誰が珍妃を殺したのか?、真実は『藪の中』です。歴史ミステリーと云うより『蒼穹の昴』の第二部です。

タグ:読書
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