SSブログ

再読 浅田次郎 蒼穹の昴 (1) [日記 (2022)]

蒼穹の昴(1) (講談社文庫) 蒼穹の昴(2) (講談社文庫)   『輪違屋 糸里』『一刀斎夢録』が面白かったので、浅田次郎 の大長編『蒼穹の昴』を再読。第6部まであり、義和団事件→戊戌の変法→張作霖爆殺→辛亥革命→満洲国成立→西安事件と続きますから、清朝末期と昭和史のおさらいには格好の読書です。

 光緒12年(1886)に幕が開きます。光緒帝は、「戊戌の変法」で政治改革を目論むも西太后と袁世凱のクーデターに潰され、自身も西太后に暗殺されたのではないかと言われる清の11代皇帝です。姓は愛新覚羅、征服王朝満州(韃靼)族の末裔です。清王朝は辛亥革命によって倒され、12代皇帝溥儀は清朝最後の皇帝となります。「紫禁城の黄昏」の時代の物語です。

宦官と進士
 天津近郊、静海の糞拾の少年・李春児(李春雲)と地主の息子・梁文秀が登場します。春児は自ら去勢して宦官となって西太后に仕え、梁文秀は科挙に合格して進士となり光緒帝に仕えます。1989年の「戊戌の変法」で対立する西太后vs.光緒帝の保革の政治党争と辛亥革命、中国版「維新」を春児と梁文秀を主人公に描きます。

 都の条坊制から法制まで中国から取り入れた日本が、唯一取り入れなかったものが日本の政治風土とは異質な宦官と科挙です。宦官と進士が主人公とは不思議な組み合わせです。庶民が官僚となって政治に参画するには、科挙に合格して進士となるか、男を捨てて後宮(皇帝の雑用を担うのもまた宦官)に入る道があった様です。科挙に合格するには受験勉強に財力が要り、宦官になるにはナニをチョン切らねばなりませんが、階級を飛び越える手段があったわけです。日本でも一般庶民が階級を飛び越えた例はありますが、清朝はこれを制度として持っていたことになります。春児と梁文秀の組み合わせは、小説としてはベストコンビと言えるかも知れません。

 ストーリーは占師の予言から始まります。予言は、春児は西太后の財を尽く手中に収め、文秀は皇帝の傍らで政治を司ると云うもの。この予言に絡め取られ、春児は西太后に近づく為に自ら浄身し、文秀は状元の進士となります。
 春児は、後宮の元大総菅で盲目の安徳海と出会い、「龍玉」の伝説を聞かされます。龍玉とはそれを手中にする者が中原の覇者になるという権力の象徴です。龍玉の登場によって春児と梁文秀の物語に伝奇色が加えられます。春児は、棄てられた宦官の吹き溜まり老公胡同で宦官修行をし、西太后の目に止まりたちまち小太監、出来すぎだろうw。一方の文秀は、科挙の首席である状元の進士として内閣の秘書官となり、国政を担当する軍機大臣への出世の階段を駆け登るというわけです。

征服王朝
 清は、20万の満州族が4億の漢民族を支配する征服王朝。チンギス・ハンの末裔によって満州に起こり、三代皇帝・順治帝は長城を越えて「中原に覇を唱え」ます。「中華」の誇り高い漢民族が、250年にわたって夷狄の女真に支配されたわけで、よく黙っていたものだと思うのですが、その辺りを作者が解き明かしてくれるでしょう。清は、第6代皇帝・乾隆帝の頃最盛期をむかえ、版図は黒竜江から新疆、チベットに及び、ミャンマー、ヴェトナム、ラオス、タイ、朝鮮を朝貢国とする一大帝国形成されます。現代中国は乾隆帝の遺産の上に成り立っているのかも知れませんw。19世紀になると、アヘン戦争、アロー号事件、日清戦争と外患が起き、太平天国の乱、捻軍の反乱と内憂外患に見舞われます。太平天国の鎮圧に活躍した曽国藩、李鴻章らによって軍閥が形成され、将兵の一部は「滅満興漢」の反体制組織を形成し辛亥革命へと雪崩を打つわけです。従って、『 蒼穹の昴』には曽国藩、李鴻章、袁世凱、康有為ら史上の人物も綺羅星の如く登場します。

西太后
 中国の近代化を推し進めたのは、ネガティブな意味で、咸豊帝の側室で11代皇帝同治帝の母親・西太后慈禧でしょう。同治帝、光緒帝の40年にわたって政治の実権を握りますが、その間には太平天国の乱、清仏戦争、日清戦争があり、1000万の餓死者を出す飢饉があり、西太后排除の動きが現れます。戊戌の変法は、近代化のために西太后を除くというクーデターです。紫禁城は(西太)后派と(光緒)帝党に別れ、春児は小太監として西太后に組し、文秀は補佐官として光緒帝に組するわけです。 →続き

タグ:読書
nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。