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ドラマ スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ  (2) (2019露) [日記 (2023)]

スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ DVD-BOX  続きです。で、ドラマはというと、
ドイツ大使館
 ドラマは、1938年(昭13)、銀座のドイツ料理店「ラインゴールド」から始まります。店の舞台では、石井花子(中丸シオン)が「リリーマルレーン」を歌い、客席では駐在武官のオイゲン・オット(アンドレイ・ルジェンスキ)が次期駐日大使の座を狙いゾルゲ(アレクサンドル・ドモガロフ)に協力を依頼します。ゾルゲは、オットが次期大使に相応しいとする記事をドイツの新聞に配信し、オットは大使となります。オットはゾルゲを補佐官に任命し大使館に一室を与えます。ジャーナリスト、ゾルゲの情報分析力を利用したいオットと、オットからドイツの政治、軍事情報を得たいゾルゲの思惑が一致したわけです。以後、ゾルゲの主要な諜報の舞台はドイツ大使館となります。
 オットは、ゾルゲに機密情報を漏らしたとして1942年に大使を解任されます。

GRU vs. NKVD
 このドラマの面白いところは、東京のゾルゲの諜報活動を描き、それに呼応するようにモスクワのスターリン、赤軍情報局(GRU)のヴォロシーロフ、内務省秘密警察(NKVD)を握るベリヤの3人が登場することです。これがけっこう面白い。ゾルゲはGRUのスパイですからヴォロシーロフ系列に属します。ゾルゲを日本に送り込んだのはGRUの局長ベルジンで、ベリヤは「大粛清」でこのベルジンを処刑しています。ゾルゲも本国に帰れば処刑される恐れがあったわけです。大粛清では赤軍の将校の1/3が処刑され、そのため独ソ戦が長引いたとも言われています、余談。ドラマでは、ヴォロシーロフがゾルゲの情報を支持しベリヤは否定、スターリンは「あいつは二重スパイだ東京で酒を飲んで女で遊んでいる」と宣い、ゾルゲの電報はゴミ箱へ。苦労して掴んだ独ソ戦の情報を無視され活動費を削減されますが、それもGRU vs. NKVDの権力闘争の煽りを食ったものだと云うのです。「モスクワは何を考えているんだ!」とクラウゼンが嘆き、ゾルゲが「共産主義の大義のためにはヤルしか無い」と答えるシーンはなかなか泣かせますw。ちなみにプーチンはKGBですからNKVDの系譜です。ゾルゲが無線通信要員としてGRUのクラウゼンを東京に呼び寄せる際、ベリヤはクラウゼンの妻を拉致し、妻を人質にクラウゼンにゾルゲ暗殺を命じます。これもGRU vs. NKVDの一環です。独裁と粛清と諜報は、ソ連、ロシアの伝統のようなものです(今でも?)。

 オットが大使となった1938年、「リュシコフ亡命事件」が起きます。NKVDの幹部だったリュシコフは、粛清を恐れ満州国に亡命した事件です。ゾルゲは、リュシコフから上司ベルジンの処刑とスターリンの「大粛清」を聞かされ、帰国すれば自分もまた粛清されることを覚悟するわけです。
 ゾルゲはクラウゼンのために彼の妻を東京に呼び寄せようと動きますが、その代償がリュシコフの暗殺。ゾルゲは諜報団のメンバーを使ってリュシコフを暗殺しますが、実際は1945年まで生き延びていますからこれはドラマの脚色です。

ゾルゲ諜報団
 ゾルゲをリーダーに、赤軍のスパイであるマックス・クラウゼン(ドイツ人)とブランコ・ヴーケリッチ(クロアチア人)、日本側からは尾崎秀実宮城与徳、この4人が諜報団の中核を担います。ゾルゲを含む5人とも世界の共産化を目指す国際組織コミンテルン所属の共産主義者。コミンテルン=ソ連共産党ですから、赤軍情報部によってスパイに仕立て上げられたわけです(≠職業的なスパイ)。

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 ヴーケリッチ、クラウゼン      尾崎秀実        宮城与徳

 クラウゼンは無線通信で重要なパートを担い、複写機器の「クラウゼン商会」の経営で得た資金を諜報団に提供します。ヴーケリッチはAP通信の記者として情報を収集し、写真の現像やマイクロフィルム作成等のパートを担います。尾崎は近衛内閣の参与として政権中枢の情報をゾルゲに流します。その最大のものが7/2の御前会議で決定した南進策で、この情報が独ソ戦勝利を決定づけます。宮城は英文翻訳や軍事情報の収集、米共産党出身の人脈を活かした労働運動の情報をゾルゲにもたらします。

 ドラマでは、クラウゼンとヴーケリッチの出番は多いのですが、尾崎、宮城の影は薄いです(二人を演じるのは中国の俳優で、日本語が怪しいw)。バルバロッサ作戦に於ける独軍の情報、それを探知の危険を犯して打電するシークェンスは詳細に描かれますが、尾崎の掴んだ御前会議の情報は全く描かれません。この情報こそがゾルゲ諜報団の最大のものですが、何故かスルー。宮城に至っては、スパイがバレて割腹自殺させられるあり様(事実は獄死)。
 ソ連邦英雄の影に日本人がいたとは言いたくないのでしょうか。それにしても片手落ち。

監督:セルゲイ・ギンズブルグ、ロマン・サフィ
出演:アレクサンドル・ドモガロフ、中丸シオン、山本修夢

タグ:ゾルゲ 映画
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