ドラマ スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ (3) (2019露) [日記 (2023)]
続きです。ゾルゲのドイツ大使館浸透、ソ連のGRU(赤軍)とNKVD(内務人民委員部)の対立、クラウゼン、ヴーケリッチ等諜報団のメンバーの話はある程度史実に基づいたものですが、「スパイを愛した女たち」は(ゾルゲの愛人・石井花子は実在しますが)フィクションです。
スパイを愛した女たち
石井花子に次いでもうひとり女性が登場し「スパイを愛した女たち」となります。オット大使の夫人ヘルマです。ゾルゲは第一次大戦で出征して負傷し(これは事実)、1919年ベルリンの病院で看護師ヘルマと出会い恋に落ちます。結局この恋は成就せず、29年後の1938年ヘルマはオット夫人となってゾルゲの前に現れます。ふたりに青春が甦りたちまち不倫関係に。気の毒なのはオットで、ゾルゲに公私二重に裏切られていることです。
ヘルマとの関係に気付いた花子はゾルゲから離れてゆき、その花子に一目惚れして言い寄るのが、ゾルゲをスパイの疑いで追う憲兵少佐・大崎(山本修夢)。こうなるとエスピオナージュではなく、もうメロドラマです。ゾルゲと花子の和解も用意されます。それがゾルゲの1938年のバイク事故(これは事実)。ヘルマは病室でゾルゲを介護する花子を見て身を引きます。ヘルマはベルリンにふたりの子供を残しているわけで不倫は長くは続かないわけです。
大崎 憲兵少佐
ドイツに帰国したヘルマは、ゾルゲが忘れられず再来日します。ヘルマの来日を知った花子はゾルゲを失うことを恐れ、そこに付け入るのが憲兵隊の大崎少佐(山本修夢)。大崎は、ゾルゲが出入りする〈ラインゴールド〉を内偵中に花子に一目惚れし、あっさりフラれます。大崎は、ゾルゲと花子の仲を割くため一計を案じます。ヘルマはスパイとしてゾルゲに近付いたのであり、ヘルマがスパイであることが証明できればゾルゲの心はヘルマから離れると花子に告げます。花子は、ゾルゲが秘匿している書類を大崎に見せ、この書類によってスパイであることがバレてゾルゲは逮捕されます。嫉妬に駈られた花子がヘルマ売るためにゾルゲを裏切ったという誰にでも分かり易い展開で、女性の視聴者を意識した脚色です。
事実は、ゾルゲを内偵し逮捕したのは警視庁の特高ですが、ドラマでは憲兵少佐・大崎が警察を指揮してゾルゲを追い逮捕します。陸軍の警察組織である憲兵が内務省傘下の警察を指揮するというのは、ちょっと?。ゾルゲの罪状は治安維持法、国防保安法違反ですから、治安維持、防諜を任務とする憲兵と警視庁特高が合同でゾルゲを追うのもアリかも知れませんが。
で、結局
スターリンが登場し、GRUとNKVDの権力闘争がゾルゲに影を落としている辺りは、ロシアのドラマならではです。諜報団最大の功績である日本の南進策のスクープ、尾崎秀実、宮城与徳の諜報活動が描かれない点は「歴史ドラマ」として失格でしょう。嫉妬からゾルゲを裏切る花子の物語は、メロドラマとしては分かり易いですが安易すぎ。
映像は、ロケ地が中国なので「昭和の東京」としては違和感があります。上海タワーが映り込んでいるのは笑います。
で結局、”Zorge(原題)”がドラマとして成立するためためには、ゾルゲ「事件」を取るかゾルゲを愛した「女たち」を取るかのどちらかです。このドラマは二兎を追ったため一兎を得ずに終わっています。ゾルゲと尾崎秀実を正面に据え、「事件」を見据えた篠田正浩の『スパイ・ゾルゲ』は正統派と言えます(観るならコチラです)。この項お仕舞い。
監督:セルゲイ・ギンズブルグ、ロマン・サフィ
出演:アレクサンドル・ドモガロフ、中丸シオン、山本修夢
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