スパイを愛した女たち リヒャルト・ゾルゲ (1) (2019露) [日記 (2023)]
原題”Zorge”。「ゾルゲ事件」を描いたロシアのドラマです(全12話)。ゲーム・オブ・スローンズなどの英米のドラマはお馴染みですが、ロシアのドラマはちょっと珍しい。Amazaon Primeで観ました。
リヒャルト・ゾルゲは、大祖国戦争(独ソ戦)を勝利に導いた「ソ連邦英雄」ですから、ロシアでドラマになるわけです。日本では、『スパイ・ゾルゲ/真珠湾前夜』(1961日仏)、篠田正浩の『スパイ・ゾルゲ』(2003日)と2度映画化されています。今、ロシアで何故ゾルゲなのか?。プーチンはゾルゲに憧れてKGBに入ったらしいので、プーチンの発案かも?w。
ゾルゲは日本で諜報活動をしたソ連のスパイですから、舞台は昭和10年代の東京。ゾルゲには石井花子という愛人があり、駐日ドイツ大使オイゲン・オットの夫人ヘルマとも不倫関係にあったといいますから、彼女たちを絡めて「スパイを愛した女たち」となります。ナチスの侵攻、日中戦争、満州国境での日ソの緊張と複雑な国際情勢の中でスパイ・ゾルゲが暗躍し、ゾルゲを追う憲兵少佐が登場してエスピオナージとなります。恋あり、サスペンスありの歴史ドラマです。
ゾルゲが活動した時代は、
1933(昭和8):ヒトラー首相、ゾルゲ(38)来日、国際連盟脱退、宮城与徳帰国、ヴーケリッチ合流
1934(昭和9):尾崎秀実と再会、諜報団活動開始
1935:(昭和10)石井花子と知り合う、マックス・クラウゼン来日
1936(昭和11):ニニ六事件、日独防共協定
1937(昭和12):第一次近衛内閣、尾崎内閣嘱託となる、盧溝橋事件
1938:(昭和13)オット駐日大使となる、オーストリア併合、張鼓峰事件、国家総動員法、リュシコフ亡命事件
1939(昭和14):ノモンハン事件、独ソ不可侵条約、独ポーランド侵攻(第二次世界大戦)
1940(昭和15):第二次近衛内閣、日独伊三国軍事同盟
1941(昭16):独ソ連に侵攻、御前会議、南部仏印進駐、関特演、11月ゾルゲ(諜報団)逮捕、真珠湾奇襲(大平洋戦争)、日ソ中立条約、ゾルゲ諜報団逮捕
1943(昭和18):宮城与徳獄死(40)
1944(昭和19):ゾルゲ処刑(46)、尾崎処刑(43)
1945(昭20):ブーケリッチ獄死(41)、ドイツ降伏、ポツダム宣言、クラウゼン釈放(46)
と並べてみると、大変な時代であったことが分かります。
ゾルゲの功績は、
1)独ソ連(バルバロッサ作戦)の開始時期
2)御前会議による日本の南進策
をモスクワに知らせたことです。1)は、スターリンはゾルゲを信用せずた多大の犠牲を出し、2)は日本がソ連に侵攻しないことを知り極東軍を西部戦線に投入して大祖国戦争に勝利します。ロシアのナショナリズムの根幹となる大祖国戦争を勝利導いたスパイ・ゾルゲは、ドラマの主人公として絵になります。バイクで東京を疾駆し、酒と女性に彩られたスパイはさらに絵になるというわけです。
ゾルゲは父親がドイツ人、母親がロシア人のドイツ人で生粋のロシア人ではありません。共産主義に共鳴して国際共産主義組織コミンテルンに入り、赤軍情報部のスパイとなります。つまりドイツ人のロシアのスパイ。この経歴から二重スパイであることが疑われ、スターリンはゾルゲを信用しなかったようです。逮捕後、日本はゾルゲを捕虜交換のカードに使おうとしますがソ連はゾルゲを自国民と認めず見捨てます。ゾルゲの名誉が回復されソ連邦英雄となったのは、死後20年経った1964年、フルシチョフの時代です。
歴史ドラマは、何処まで歴史を再現してどの様な解釈を下すか、ドラマとして虚実織り混ぜて如何に面白く見せるかです。この虚と実を切り分けて観ると面白いです。例えば、1941年のバルバロッサ作戦や日本の南進策をどの様に探りだしたのか?。ゾルゲは大使館を舞台にオット大使から多くの情報を引き出していますが、オットをどうやって籠絡したのか?、等々。
昭和10年代の東京 これはどう見ても中国
昭和10年代の東京 これはどう見ても中国
ゾルゲは、昭和8年に来日し昭和16年に逮捕され昭和19年に刑死します。ゾルゲは昭和の東京に生きたわけで、ドラマを作るとなると、「昭和の東京」の再現が必要となります。『スパイを愛した女たち』では古い町並みを残す中国の都市がロケ地として使われています。大使公邸は上海のヘンシャン モラー ヴィラ ホテルで、ロケ地は上海だと思われます。路面電車や当時の自動車が走りなかなか雰囲気は出ていますが、よく見ると中国であることが分かります。日本人は街頭で食事をしない、屋台の調理器具が中華鍋!など細部の詰めが甘いですw。
ゾルゲの置かれた世界情勢の説明にはニュース映画が多用され、BGMが『東京ラプソディー』などの歌謡曲ですw。→続きます。
監督:セルゲイ・ギンズブルグ、ロマン・サフィ
出演:アレクサンドル・ドモガロフ、中丸シオン、山本修夢
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