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ゾルゲ・ファイル (3)  帝国国策要綱 [日記 (2023)]

ゾルゲ・ファイル 1941-1945――赤軍情報本部機密文書 (新資料が語るゾルゲ事件 1)  一般に、尾崎秀実が7/2の御前会議の情報を掴み、ソ連はその情報を元に極東軍を東部戦線に移動して独ソ戦に勝利した、と理解されています。御前会議で決定した「情勢ノ推移ニ伴フ帝国国策要綱」は、

1) 独ソ戦がドイツ有利に展開した場合ソ連に侵攻する、そのために関東軍の戦力は保持する。
2) その時まで三国同盟も日ソ中立条約も維持する。
3) 東南アジアへの進出計画は継続する。

というものです。ゾルゲはまず6月末の「大本営政府連絡会議」の「国策要綱」を打電します。

東京、1941年7月3日
情報源のインベスト(尾崎)は、日本は六週間後に参戦すると考えている。一方で彼は、日本政府は三国同盟を守ることを決定したが、ソ連との中立条約も堅持するだろうと伝えてきた。日本はインドシナのサイゴンに三個師団を派遣することも決定した。ラムゼイ(p199)

尾崎が御前会議の決定を掴むのは7/7、8日頃ですから、7/10にこの決定情報を伝えます。

東京、1914年7月10日
情報源のインベスト[尾崎]によれば、サイゴン (インドシナ)への軍事行動計画を変更しないことが、御前会議で決定された。ただし、赤軍の敗北に備えて、対ソ軍事行動の準備をしておくことも同時に決定された。ドイツ大使オットも、「ドイツ軍がスベルドロフスクに到達したら、日本はソ連と開戦する」と同じことを言っていた。ドイツ大使館の武官は、日本は参戦するが、それは早くとも七月末か八月初めごろであり、準備が完了次第、日本軍は直ちに行動を開始すると確信しているーーーとベルリンに打電した。(p204)
この電報がゾルゲが「御前会議」の決定を通報したものとして知られています。この電報の情報本部の注釈は、

情報源の
非凡な能力と、彼の以前の報告のかなりの部分が信頼に足ることから推して、この情報は信頼に値するものである。
赤軍参謀本部情報本部長代行 戰車隊陸軍少将 (p206)

「非凡な能力」の情報源とは尾崎のことです。活動費を受け取ったというゾルゲの電文には、「ゾルゲの妻に挨拶と心からの感謝を伝えること」という情報本部の書き込みがあります。情報本部には、親ゾルゲ派と反ゾルゲ派があったようで、反ゾルゲ派のゴリコフは独ソ戦開戦後に本部長職を去っていますから、この様な注釈が生まれたのかも知れません。
 御前会議によって南進が決定されますが、独ソ戦の帰趨によては直ちに関東軍のソ連侵攻が開始されます。依然、日本の脅威は去っていないわけです。

東京、1941年7月12日
ドイツ大使オットは私に対し、日本に参戦するよう催促したが、日本は当面、中立の維持を望んでいると語った。日本には、石本(朝日記者)、中野(正剛)その他、南進を強く働きかけているグループがいるが、関東軍の青年将校の一団は、対ソ戦を支持している。私の意見では、戦争の準備は最大六週間かかり、日本は独ソ戦の推移を見守っている。もし赤軍が敗北したら、日本軍はもちろん参戦するが、敗北しない場合、静観の態度を維持するだろう。インソン(p208)

赤軍参謀本部が7月14日にスターリン、モロトフに宛てた内部報告は、ゾルゲの情報がそのまま記されています

・駐日ドイツ大使は、日本が独ソ戦に参戦するよう圧力をかけている。
・ドイツ大使館武官は日本の参戦は7/末か8/初と見ている。
・内閣改造が近い、北進論を主張する松岡外相は交代する見込み。
・7/6から大動員が始まった。朝鮮、満州では予備役の動員が続き、ソ連との国境の部隊に配属されている。
・満州内陸部からソ連国境に向けて部隊が移動している。

結論として:日本における秘密動員、関東軍の部隊移動、満州の日本軍のソ連国境地帯への展開、その他多くの事例から、日本は対ソ戦争のための広範な準備を行っていると結論づけることができる。
赤軍参謀本部情報本部長代行 戦車隊陸軍少将(パンフィーロフ )(p212,3)

と南進の情報は記されず、日本軍はソ連侵攻を準備していると結論付けています。これが7/14時点のクレムリンの現状認識です。情報本部長はグリコフからパンフィーロフに代わっています。

 7月7日にソ連侵攻を見据えた「関東軍特別演習」の大動員令が下ります。この大動員令も報告されています。
東京、1941年7月15日
四一年七月一七日から二一日までに、日本軍はサイゴンを占領しようとしている。現在日本では 、二十七歳から三十九歳までの徴兵を行っている。動員された兵士は、朝鮮、中国、満州に送られる。ドイツ軍がレニングラード、モスクワ、キエフを占領すると、宣戦布告 なしにソ連が攻撃される。
名古屋の三菱工場では、三八ミリ砲と二個の機関銃を装備した一八トンの戦車を生産している。 八九式カノン砲は、技術的な改造をせずに火炎放射器として使用されている。(p220)

御前会議では南進、北進の両面作戦が決定されたのであって、日本の脅威は去っていません。大動員で関東軍の戦力が増強され、ソ満国境に続々と部隊が移動する情報にクレムリンは戦々恐々です。ソ連が極東軍を東部戦線に移動するのは9月下旬です。

タグ:ゾルゲ 読書
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