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『ベルリン飛行指令』から零戦搭載無線機を想像する [日記(2008)]

cockpit.jpg
 『ベルリン飛行指令』が面白かったので、零戦搭載の無線機を再度調べてみました。

『ベルリン飛行指令』では、
(1)当時の搭載無線機の性能が悪かったため、海軍航空技術廠の盛田中尉が部品を吟味し96式1号無線機を改良した。
(2)このため、機上での安藤大尉と乾一空曹との会話が円滑に運び、飛行中の物語進行にも寄与しています。
(3)この96式1号無線機を使った地上との交信は描かれていません。

昭和12年(1937年)の零戦の開発仕様では、
無線機:96式空1号無線電話機1組、ク式空3号帰投方位測定器1組
となっています。零戦が海軍に納入されたのは昭和14年(1939年)9月ですから、『ベルリン飛行指令』の安藤・乾機も96式空1号無線電話機が搭載されていたはずです。機体を軽くするため、ク式空3号帰投方位測定器は外されていたことでしょう。
作者は、この無線機があまり役に立たなかったこと、紫電改が『改良が施された無線機(無線電話機)を活用した編隊空戦法により大きな戦果を挙げた(wikipedia)』ことを念頭に、盛田中尉に無線機の改造させたのでしょう。この【96式1号無線機】ですが、wikipediaその他によると

<<送信機>>
発信:水晶制御、
変調方式:終段抑制格子変調
電波形式:A1(電信)、A3(電話)
出力:15W
周波数:3.8MHz-5.8MHz
通信距離:対機30浬(50km)、対地100浬(180km)
<<受信機>>
構成:水晶制御スーパーヘテロダイン式(高周波増幅1段、中間周波増幅1段)
周波数範囲:3.8MHz-5.8MHz
重量:18㎏

出力15Wの電信電話送信機と受信機は高1中1のスーパーですね。使用されていた真空管は分かりません。
この96式1号無線電話機は、52型A6M5(昭和18年8月採用)より、3式空1号無線電話機におき替わります。3式空1号は紫電改にも積まれ343部隊の戦果に貢献した様ですから、これにより僚機間の電話による交信が円滑に行われる様になったと思われます。

96式1号送受信機.jpg
画像の右下が送信機、左下が受信機です。中程上部にあるのはコントローラーでしょうか。

96式1号.jpg
送信機の実物はこんな感じ。
96式1号終段.jpg
送信機の内部で、電力増幅管らしいものに『マツダ』と『UYー503』の文字が見えます。

96式1号送信機.jpg
96式1号受信機.jpg

受信機の画像は見つかりません。ここにイラストがあったのが唯一です。



【3式空1号無線電話機】
通信距離: 185km(対機)
周波数: 5,000-10,000KHz
電波形式: A3(電話)、A1(電信)
送信入力: 100W
機器概要
送信部:水晶制御、第三格子変調、発振FZ-064A、電力増幅FB-325A
受信部: 水晶制御、高周波1段スパーヘテロダイン方式(中間周波635KC)、FM2A05A叉はソラ7球
このFM2A05Aは、昭和16年日本無線によってテレフンケンのNF-2をベースに開発された真空管です。昭和14年の96式1号無線機には間に合っていなかた様です。受信機が全段FM2A05Aで構成されているのは軍用ならではの仕様でしょう。このFM2A05Aは生産効率が悪かった様で、後に有名な『ソラ』が開発され、以後ソラにおきかわります。
3式空1号無線電話機に替わり、入力100Wの増強され、通信周波数は3.8MHz-5.8MHzから5MHz-10MHzに変更され、受信機が水晶制御の固定チャンネルに変わっています。

3式1号無線電話.jpg 3式コントローラー.jpg
3式1号無線電話機            同コントローラー

 想像するに(小説の隠れた部分を想像しても意味は無いですが)、盛田中尉の施した改良とは、
1)交信周波数の変更(5MHz以上)
2)出力の増強
3)送受周波数の水晶制御
ではないかと思われます。問題の多い96式1号の無線機の改造は海軍航空技術廠で進められていた筈ですから、盛田中尉は3式空1号無線機を試験的に安藤・乾機に積んだと考えるのが自然です。
 それにしても、作者が盛田中尉を登場させた慧眼は半端じゃないですね、脱帽。

『ベルリン飛行指令』から零戦搭載無線機を想像する(2) ク式空3号帰投方位測定器

資料、および画像は
横浜旧軍無線通信資料館 様
怪獣.com 様・・・愉快です。
より拝借致しました、感謝。

【09/04/23の補足】
何時も参照させて頂いている横浜旧軍無線通信資料館様の[2009/04/22] No.5652に以下の記述がありましたので、無断ですが引用させていただきます。

***** 引用 *****

96式空1号無線電話機に係わる若干の補足
本無線電話機は96艦戦や零戦21型等に搭載されたが、坂井三郎氏の著書「大空のサムライ」の影響が大きく、現在なお紋切型に「役に立たない無線電話機」として語られることが多い。係る扱いは客観性に欠け誠に不満ではあるが、96式空1号無線電話機は残存物や資料が極端に少なく、よって、現状では本件に立ち入ることを差し控えたい。
96式空1号無線電話機は開発当時(1936年)にあっては画期的な無線電話機であり、この時期、諸外国の航空機用無線電話機の多くが再生式やストレート方式の受信機を装備する中、本機の受信機は局部発振が水晶制御のスーパーへテロダイン方式であった。当初この受信機は直熟式真空管で構成され、その後傍熱管式に改良されたと考えられるが、回路構成他詳細については不明である。改良型の96式空1号無線電話機改-1については、米国の蒐集家が送信機及び送受信機用電源を所蔵しているが、受信機の存在は原型、改-1共に確認したことがない。
物議の多い本機を正しく評価するためにも、関連機材や情報の入手を切望しているが、現在手持ち資料より推測される96式空1号無線電話機改-1の概要は、大凡以下の様なものである。

96式空1号無線電話機改-1緒元
通達距離:対地電話通信、約70Km
周波数:3,800-5,800KHz
電波形式:A1(電信)、A3(電話)
送信出力:約7W
送信機:水晶発振・輻射UY-503、陽極変調UY-503
受信機:スーパーへテロダイン方式、局部発振水晶制御方式、高周波増幅UZ-77、周波数混合・局部水晶発振Ut-6A7、中間周波増幅UZ-77、再生式検波UY-37、低周波増幅UZ-41
電源:送受信機各直流変圧器(入力12V)
空中線:ワイヤー式

***** 引用終わり *****

【2010/070/03追記】
九六式一号無線電話機の新しい情報が入りました



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通りすがりの仮面ライダー

この当時はアースの技術・理論が未熟なのでスパークプラグのシールドをあわせると、とてもじゃないが振幅変調無線機は役に立たなかったろうと思われる。従ってその辺りを改善して実用化したと見るのが適切だろう。松山343空だって無線にはまだたまだ苦労していたのが実態だったろう。旧海軍は周波数変調の通信機は使用していなかったのだろうか。ちなみに戦車は超再生を使っていたとか。
by 通りすがりの仮面ライダー (2010-06-13 15:43) 

べっちゃん

エンジンのスパークプラグのノイズで、通信がマスクされるということですね。超再生ならVHFですから少しはノイズに強いんでしょうか?調べてみます。
by べっちゃん (2010-06-18 23:02) 

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