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海音寺潮五郎 西郷と大久保 [日記(2010)]

西郷と大久保 (新潮文庫)

西郷と大久保 (新潮文庫)

  • 作者: 海音寺 潮五郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1990/09
  • メディア: 文庫
 幕末ものはけっこう好きでいろいろ読んできました。幕末の英雄豪傑は、多分に司馬遼太郎の影響下ではありますが、坂本龍馬にしろ土方歳三にしろ木戸孝允にしろ、なんとなくイメージを持つことができるのですが、西郷隆盛だけはイメージが湧きません。せいぜい武蔵丸です(笑。

 物語は、1858年(安政5年)11月早朝、薩摩城下加治屋町の大久保一蔵(利通)宅から幕が開きます。有村俊斎が大久保を訪ね、西郷と僧・月照が入水自殺した噂を伝えます。そこへ吉井幸輔、伊地知竜右衛門が現れ、西郷をリーダーとする薩摩の過激派『精忠組』の主立ったメンバーが顔を揃えます。

 薩摩藩が月照の保護を断ったことに悲憤して、西郷と月照が鹿児島湾に身を投げた事は有名な話です。島津斉彬の意を受けて公武合体、将軍継嗣問題、井伊直弼排斥、斉彬上洛などの勤王運動に奔走してきた西郷は、斉彬の死によって梯子を外されたたわけです。本書は、入水自殺に至る西郷の活躍と挫折を序章に、西郷の奄美大島・沖永良部遠島、西郷不在の薩摩で孤軍奮闘する大久保や精忠組の面々の活躍、寺田屋事件を経て西郷の復帰が描かれます。
 薩長同盟、大政奉還、戊辰戦争など西郷が歴史の表舞台に登場した4年間は全く触れられず、小説は一気に征韓論に跳び、西郷下野で終わっています。

 作者は西郷をライフワークとした小説家です。本書は激動の幕末を背景に英雄西郷と、現実主義者大久保の友情と離反を描いていますが、西郷以上に大久保の人間像が躍動しています。西郷を正面から描くのではなく、大久保という光源で西郷を照らし出すと云う小説手法は成功していると思われます。例えば

 学問は伊地知サァに及ばず、武術は俊斎どんに劣り、智恵弁舌はおい(大久保)におとっていなさるのじゃが、人物の出来というものはそれとは別と見ゆる。吉之助サァのよな人を、英雄の天質ありというじょじゃろうなあ・・・。

という大久保の独白や、時代を動かすには薩摩藩の力が必要と考え、久光の懐に飛び込む現実主義の大久保との対比で、西郷を理解することも可能なわけです。

 興味深かったことは、不平氏族の不満のはけ口として西郷が支持した『征韓論』を、作者は『維新のやり直し』と捉えていることです。幾多の犠牲をはらった倒幕の後の新政府は、薩長顕官の堕落と腐敗によって幕府以下の政権となり、西郷の理想とはほど遠いものでした。西郷は、日本をもう一度混乱の中に投げ入れることで、真の維新を実現しようとした様です。西郷があれほど執拗に『征韓論』に拘った理由もそこにあるわけです。

 で、西郷隆盛のイメージが膨らんだかというと今ひとつ、茫洋とそびえる山の如き西郷・・・。海音寺潮五郎の絶筆となった長編『西郷隆盛』を読んでみます。


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