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本田靖晴 疵 花形敬とその時代 [日記(2010)]

疵―花形敬とその時代 (ちくま文庫)

疵―花形敬とその時代 (ちくま文庫)

  • 作者: 本田 靖春
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2009/08/10
  • メディア: 文庫
 昭和一桁生まれの世代を『焼け跡闇市派』と呼んだ時期があります。本書は、戦後の焼け跡闇市渋谷で暴力団幹部として成り上がり、昭和38年に抗争事件で死んだ花形敬の評伝です。文字通り花形敬と『その時代』を描いたノンフィクションです。

 東京近郊の名門に生まれ、府立中学(旧制)まで進んだ花形敬が伝説のヤクザ(暴力団員)に変身する過程を、時代を背景に描きます。旧制千歳中学(著者の本田靖春は同窓)の同級生が、方や一橋から一流企業の役員の道をたどり、花形が暴力団員となって抗争の刃に斃れるというエピソードが出てきますが、まさに時代が生んだアイロニーです。その役員は、食べることに精一杯で、ヤクザにさえなれなかったというのです。さらに、筆者はヤミ金融『光クラブ』の東大生・山崎晃嗣と花形敬を対比します。

 敗戦によって日本は国家主義から民主主義へ180度変わるわパラダイムの転換期です。本書の中で実例として挙げられていますが、天皇絶対制を説き軍事教練を指導した配属将校が、敗戦を機に社会科の教師となり民主主義を教えるという混乱が生じます。生徒は教えられる中身と教える人間を信用できる筈はなく、唯一身に備わった能力を正義として生きる他はないこととなります。山崎は自分の【知力】を武器に時代に挑み青酸カリ自殺を遂げ、花形は並外れた【体力】と度胸を武器に時代に挑み斃れます。ふたりは時代の申し子であったわけです。

 これは旧制中学生や大学生で敗戦を迎えた花形、山崎に限ったことではありません。本書では、様々な抗争事件を踏まえ、既成勢力が崩れ去った(力を失った)焼け跡で、知力と体力で自分の生きるテリトリーを確保していった男達の物語が描かれています。

 戦後の混乱期に、ステゴロ(素手の喧嘩)一本でヤクザ世界を駆け抜けた男、花形敬の一代記です。

 

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by お名前(必須) (2018-06-10 08:17) 

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