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映画 シテール島への船出(1984ギリシャ) [日記(2010)]

テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX II (ユリシーズの瞳/こうのとり、たちずさんで/シテール島の船出)
 晦渋、難解、殆ど理解できません。最後に老夫婦を乗せて艀が沖へと出ますから、かろうじて『シテール島への船出』だと分かります(笑。
 あらすじを書いてもほとんど用をなしません。監督のテオ・アンゲロプロスはイメージを塗り重ねる抽象画のように映画を作っている様です。『シテール島』を検索すると、

●ジャン・アントワーヌ・ヴァトーの絵画「シテール島への巡礼」
●ドビュッシーのピアノ曲(ヴァトーの絵に喚起された)
●シテール島はエーゲ海、クレタ島の北西にある島で、神話では愛の女神ヴィーナスの島とされている

つまり、神話上の島の様です。その島へ船出しようというのですから、映画そのものが神話世界でしょう。

 花売りの爺さんが次のシーンでは主役(スピロ)となって現れるちょっと分かり辛い構成ですが、『シテール島への船出』は、数十年ぶりに故国に帰ったスピロによって、1980年のギリシャの現実が炙り出されるという仕組みになっています。

 スピロはロシアの船から降り立ちます。故郷に帰ったスピロが、鳥の鳴き声で昔の仲間に合図を送り、その後墓地を訪れるシーンがあります。これは第二次世界大戦でナチと闘ったパルチザンですね。その後『内戦』という言葉が出て来ます。
 ギリシャの歴史を調べると、第二次世界大戦後、英国・米国の支援を受けた右派とパルチザン左派の内戦があり、左派共産勢力の敗北で終わっています。内戦で敗北したスピロはソ連に亡命したのでしょう。世話する女性が現れ子供が3人いるとスピロが告白しています。家族と故国を捨てたスピロ、捨てられた妻カテリーナ、息子、娘ヴォーラの心象風景が、雨と雪のブルーを基調に映像化されています。

 スピロが炙り出したものとは何なのか?ひとつは捨てられた家族の3人。アレクサンドロスは、父親が現れたことに気持ちの整理もつかず明確な行動も起こせず、家族の廻りをウロチョロするだけ。彼は映画監督の様なのでテオ・アンゲロプロス の分身でしょうか?まるで物事に対処できない知識人を嘲笑っている様です。自ら行動したのは、恋人の女優に逃げ込んだことだけ。娘はというと、今頃ノウノウと戻ってきた父親にも、捨てられた恨みのひとつも言えない母親にも、この状況を持てあます兄にもかなり批判的。信じられるものは現実のこの存在のみだと、行きづりの水兵に身を任せたり、もうめちゃくちゃ。スピロに捨てられた後、女手ひとつで子供達を育てた最大の被害者母親は沈黙するだけ。最後はすべてを許して『シテール島への船出』をしてしまいます。これがギリシャの現実だと云いたいんですかねぇ。

 もうひとつは政治的亡霊に対処できない警察(政治)。無国籍のスピロをなんとかロシアに帰して事無きを得ようとあたふた。ロシア船に引き取りを拒否されると、ロシアでもギリシャでもないノーマンズランド『艀』に乗せて放置するという無能。テオ・アンゲロプロスは警察を愚弄しきっています。まだまだありそうです。

 そして神話の島シテール島へ船出するスピロと『捨てられた妻』カテリーナが暗示するものは何なんでしょう。『シテール島への船出』はきわめて政治的な情況的な映画ではないでしょうか?

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監督・制作:テオ・アンゲロプロス 
出演:ジュリオ・ブロージ マノス・カトラキス ドーラ・ヴァラナキ

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