映画 21グラム(2003米) [日記(2012)]
タイトルの『21グラム』は人間の命(魂)の重さのことです。人は死ぬ瞬間、誰でも21gだけ軽くなると言われています。だからこの21gが命の重さというわけです。
クリスティーナが幼いふたりの娘と楽しそうにケーキを作るシーンがあり、平凡だが幸せな家庭の主婦。
ジャックは16歳の時から麻薬、強盗などで刑務所を出たり入ったりする不良でしたが、「すべては神の意思、髪の毛1本動いても神にはわかる」と言うように、今では熱心なクリスチャン。何故か突然に刑務所のシーン、「また戻ってきたのか?」ジャックが収監されています。
この映画が厄介なのは、時間軸に沿ってストリーが進行しないことです。冒頭のベッドの上のポールとクリスティーナのシーンですが、これは映画の後半で心臓移植を受けて回復したポールとクリスティーナの情事のシーンです。血だらけになったポールをクリスティーナとジャックが車で病院に運ぶシーンがあり、これも終盤の出来事です。これらのプロットを前半に持って来られると見ている方は混乱しますが、ミステリアスな手法で観客を引っ張ってゆきます。
クリスティーナの家族を失ったトラウマを救うために、ポールはジャックを殺そうと彼が滞在するモーテルでクリスティーナと機会をうかがいます。結局、跪くジャックの傍らに数発の銃弾を撃ち込んだだけで殺すことができません。その後、ジャックは俺を殺せとふたりの部屋に乱入し、乱闘の末ポールは拳銃で自分の胸を撃ち抜き自殺を図ります。運ばれた病院で、ポールの心臓が停止して幕。
登場人物と「21g」の関係を整理してみます。
●ポール
心臓移植をしないと余命1ヶ月の身。交通事故で亡くなったクリスティーナの夫の心臓を移植し一命をとりとめたが、拒絶反応を起こし再度移植手術をしないと生きながらえることはできない。クリスティーナのトラウマを救うためにジャックを殺そうとするが殺せず、最後は自殺する。
●ポールの妻メアリー
前夫との子供を中絶したため不妊となり、人工授精によってポールの子供を産もうとしている。中絶が発覚し、人工授精を望まないポールとは関係が悪化し離婚寸前。
●クリスティーナ
夫とふたりの娘を交通事故で失い、薬物依存となった失意の底でポールと愛し合うようになる。自殺を企てたポールを運んだ病院で妊娠が発覚する(おそらくポールの子供)。轢き逃げしたジャックを殺したいと考えている。
●ジャック
クリスティーナの家族を轢き逃げし殺してしまう。ポールに殺されかけるが生き延び、殺されるためにポールの部屋を訪れるが逆にポールの自殺を引き起こす。警察ではポールを殺したと自白する。
登場人物4人は、それぞれが「命を授かる」「命を奪う」「命を奪われる」関係にあります。ポールは何故自殺したのでしょう?4人の中でポールだけが「命を授かる」だけで「命を奪う」「命を奪われる」こととは無関係にあります(最後は自らの命を奪いますが)。ジャックの「信仰」を描くことに相当の比重がかかっていることを考えると、ジャックは一連の愛憎劇の果てに、自分の妻メアリー、クリスティーナ、ジャックの3人の「21g」を背負って自ら命を絶ったと考えられないこともありません。自殺することで、3人の仲間入りを果たしたわけです。かなり無理のあるある解釈ですが。
監督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演者 ショーン・ペン ナオミ・ワッツ ベニチオ・デル・トロ
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