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熊谷達也 邂逅の森 [日記(2012)]

邂逅の森 (文春文庫)
 これを読むつもりで間違って『相剋の森』を読んでしまいました。やっと本命、直木賞、山本周五郎賞W受賞の『邂逅の森』です。両方ともマタギを主人公としていますが、『相剋の森』と違ってこちらは浮ついたところも無く重厚です。舞台を大正~昭和に取り、山形のマタギ富治の波乱の一生を描きます。
 『相剋の森』の魅力は、日露戦争から第一次世界大戦を経て日中戦争に至る時代を背景に、奥羽山脈の山深い村で、自然と一体となってマタギが熊を狩る姿や、原初的な男女関係です。

 マタギとして鉄砲の腕を誇る25歳の富治は、名主の娘・文枝と恋仲になり文枝は妊ります。文枝とは村の行事である渓流の漁で知り合い、当時一般的であったという「夜這い」によって関係を深めてゆきます。この男女関係も土俗的かつ牧歌的で好感が持てます。文枝には親の決めた医者の許嫁があり、結局生まれる子供を許嫁と育てることでふたりは結婚します。文枝は生まれてくる子供を取り、富治は捨てられたということになります。
 子供の父親が同じ村にいては問題が多いということで富治は鉱山に追いやられ、物語は第二部へと続きます。

 銅鉱山に追いやられた富次は鉱夫のギルド(友子)に加わり、次第に頭角を現します。マタギという伝統的な狩猟集団と「友子」と言われる鉱夫の徒弟組織が描かれます。いずれも掟や因習に律っせられた職業集団で、技能とともに徒弟や長幼の関係が重視される社会です。友子に至っては、全国の鉱山と相互扶助の横の連携組織が出来上がっています。富次はこの友子組織に加わり、鉱夫としての道を歩き始めます。マタギの物語 → 鉱夫の物語に?と思いましたが、作家はこの章を助走に富次を新たなマタギの物語、第三部へと飛躍させます。

 鉱夫の友子で力を蓄えた富次は、小太郎という若者の面倒を見ることになります。富治の生涯を決定づける重要な人物です。富治は、小太郎の趣味の熊狩りに付き合ったことで、消えていたマタギの狩猟本能に火が付きます。富治は、文枝との事もあって故郷でマタギに復帰することはできません。鉱夫を辞めて帰った小太郎の村ではマタギが可能だと考え、仕留めた熊一頭を手土産に小太郎の村に住み着きます。すんなりと受け入れられたわけではなく、小太郎の姉イクとの結婚が条件となります。イクは元娼婦で、夜這いを受け入れるため村の男達の諍いの元なっているという女性。イクを富治とくっつけてしまえば村は平安を取り戻すというわけです。

 富治とイクは結ばれ、新たな“愛”の物語が始まります。

 「熊狩り」という人間と自然がかかわる過酷な世界と、人間と人間が生でぶつかる男女の“愛”が対置され融合する骨太な物語です。さすが直木賞、山本周五郎賞W受賞で面白いです。

タグ:読書
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