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BSシネマ 嘆きのテレーズ(1953仏) [日記(2013)]

嘆きのテレーズ [DVD]
 原作は、フランス自然主義文学の大家エミール・ゾラ『テレーズ・ラカン』。監督が“フランス映画史に今も燦然と輝く名作”『天井桟敷の人々』のマルセル・カルネ。と言っても、読んでないし見ていません。たまたまBSでやっていたので、きっと凄いんだろうと見ました。
 あれ?ヒッチコックみたい、という映画です。
 不倫の果てに夫を殺してしまうと云うサスペンスです。現在であればいかにもありそうな話しですが、原作が書かれたのは150年前の1867年で、当時は刺激的な小説だったんでしょう。

 主人公テレーズ(シモーヌ・シニョレ)は両親を亡くして叔母に引き取られ、叔母の息子カミーユと結婚します。病人の看護婦として嫁が必要だった、とテレーズが語っていますが、ひ弱な夫の面倒をみて一家の主婦、稼業である生地屋の店をきりもりする生活は、義母とカミーユの使用人同然の生活です。義母はひとり息子のカミーユを溺愛して妻であるテレーズに辛く当たり、カミーユは当然マザコン、夫婦の仲は冷め切っていると云う状態です。

 そうした中で、イタリア人ロラン(ラフ・ヴァローネ)が酔いつぶれたカミーユを自宅に送り届けたことで、ふたりは知り合います。絵に書いた様なソープオペラの誕生です。ロランは自分のトラックで運送業をやっている出稼ぎのイタリア人。若くも無さそうだし当然裕福でもありませんが、軟弱なカミーユと違って男らしく自分の意思を貫く勇気を持っています。冷めた結婚生活と義母との関係に疲れたテレーズの心にロランは忍び込みます。
 
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  テレーズ                      テレーズとロラン
 
 ふたりの逢瀬が続き、ロランはカミーユからテレーズを奪うことを決心、カミーユにすべてを告白します。さっさとふたりで逃げればいいのにと思うのですが、150年前は不倫→駆け落ちが現在ほど自由でなかったんでしょう。映画の中でもカミーユによって非難されていますが、テレーズの不倫は当時(映画公開の1953年)は姦通罪にあたります(ちなみにフランスで姦通罪が廃止されたのは1975年!)。
 ロランとテレーズの仲を聞かされたカミーユは、毅然とした態度を取ることも出来ず、テレーズに関係修復の旅行を持ちかけます。パリに行ったら伯母の家に監禁するとか母親に言っていますが、何処まで行ってもカミーユは矮小でセコイです。面白いのは、この時点で母親が全てを見通していること。これが後で利いてきます。

 カミーユとテレーズは列車でパリに向かいます。ここからがサスペンス映画です。
 ロランはテレーズを奪うつもりで列車に乗り込み、カミーユに発見されカミーユを列車から突き落としてしまいます。ロランに殺意は無く、事故だったという設定ですが、テレーズはこの旅行でカミーユとの結婚に決着を付けるつもりで、そのことをロランに電話で話しています。深層ではロランによるカミーユ殺害を望んでいたのかもしれません。テレーズは、ロランが列車に乗っているは誰も知らない、警察も自殺か事故死と判断する、と言ってロランを列車から降ろし、自分は何食わぬ顔で席に戻ります。

 邪魔者がひとり消えたわけです。もう一人の邪魔者カミーユの母親は、息子の悲報を聞いて倒れ、失語症に陥ってしまいます。母親はカミーユとテレーズの関係がうまくいっていないこと、その原因がロランにあることを知っていますから、カミーユの死が殺人であることを確信しているようです。口の利けない母親は目でテレーズを非難します、その眼光の鋭さは鬼気迫るものがあります。

 死体が発見され、テレーズは身元確認のためこの死体を見て恐ろしくなり、ロランとの仲も次第に冷えてゆきます。
 目撃者の登場です。カミーユとテレーズと同じコンパートメントいた元水兵。テレーズの住まいを探り出し、恐喝し始めます。この元水兵が殺人事現場を目撃したわけではありません。テレーズがコンパートメント出てゆき、カミーユが後を追い、テレーズだけが戻るという顛末を、この元水夫は寝たふりをして見ていたわけです。カミーユの転落は事故ではなく、テレーズとその協力者による殺人だと確信し、リヨンにやって来てテレーズを強請始めます。
 この恐喝者の登場によって、皮肉にもテレーズの冷めかけた愛が再燃します。元水夫はロランを見つけ、ふたりに50万フランの口止め料を請求します...。

 きっと第2の殺人が行われるんだろうと期待?したのですが、ゾラは推理作家ではないですからそうはなりません。その代わり、もっと残酷で洒落た「オチ」を用意しています。

 シモーヌ・シニョレの存在感は圧倒的です。それほど綺麗というわけではないし演技がどうということも無いのですが、義母(伯母)への憎しみ、カミーユへの軽蔑の演技は凄いです。能面のような無表情な顔と冷徹な演技は、テレーズ・ラカンがこれまで背負ってきた人生と云うものが余さず表現しているようです。もっとも名匠マルセル・カルネの腕でしょうね。
 オチも途中で分かってしまうので、サスペンスとしてはチョットですが、シモーヌ・シニョレだけでも見る価値は十分にあります。お薦めです。

監督:マルセル・カルネ
出演:シモーヌ・シニョレ ラフ・ヴァローネ

タグ:BSシネマ
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yu-papa

nice!有り難うございます(HAPPY)
by yu-papa (2013-02-07 21:58) 

べっちゃん

yu-papaさん、どうもです。
by べっちゃん (2013-02-08 09:12) 

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