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林望 謹訳 源氏物語(17)初音 [日記(2013)]

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源氏物語図色紙貼交屏風(初音) 斎宮歴史博物館

  「玉鬘」は新年を控えた年末の衣装選びで幕が下りました。「初音」は、新年を迎えた六条院の正月風景です。「朝顔」で手ひどく振られたためか、「少女」辺りから、どうも様子が違ってきて、源氏のギラギラした「色好み」も鳴りを潜めています。

《正月1日》

 新年を迎え、源氏は各女君の御殿に挨拶回りをやっています。紫上とはちょっと戯れ、明石の姫君と顔を合わせ、花散里とはしんみりとした夫婦の会話があって、玉鬘です。玉鬘の美しさに見とれ、昨年来の筑紫から京へ上る事件を思い出しながら源氏は、

〈よかった、よかった、もしこのようにわが邸に迎えることがなかったら、それこそ残念至極なことであったろうな〉と思う。
……しかし、源氏がそう感じたとあっては、この親子という関係のままで無事済まされるとはとうてい思えないが、さてどうだろうか。

と紫式部も心配していますが、私もそう思う(笑。

 暮れ方に明石の御方を訪れます。その清楚な姿に

〈ああ、こんなことをしては、また新年早々から、紫上にあれこれうるさいことを言われるかもしれぬが……〉

と沈没。沈没したのはいいのですが、翌朝が怖い。朝帰りとなりますが、当然紫上はオカンムリ
で、

「いや、思いがけずうたた寝をしてしまってね、若いものじゃあるまいし、ついついい穢く寝込んでしまったのに……誰も私を起こしてくれなかったんだよ」
一生懸命に紫上のご機嫌を取る源氏の様子、いささか笑うべきところがある。
紫上は、むっとして返事すらしない。

なんと源氏は狸寝入りして難を逃れるというオチまでつきます。源氏と紫上の痴話喧嘩ばかり引用していますが、完全無欠のような源氏が、紫上だけには頭が上がらずシッポを巻く姿はなかなか微笑ましいです。

《正月2日》

 源氏は、第1ハーレム・六条院の女君への挨拶が住むと、今度は第2ハーレム・二条の東院へ出かけます。第2ハーレムの主な住人は、末摘花と尼となった空蝉です。末摘花は「蓬生」以来久々の登場です。、 仮名書きの古風なる学問百般にもっぱら心を砕いていると、この人は相当変わっています。末摘花も歳をとって自慢の黒髪も真っ白になり、自慢の黒貂の毛皮も出家した兄に与えたとかでみすぼらしい格好をしています。正月用に贈った衣装も何故か着ていません。末摘花は子供のように純な心根の女君ですから、周りが気をつけていないとこうなるります。マメな源氏はすぐさま家来に命じて衣装を整えます。

 空蝉は『関屋』で源氏と再会し、源氏の強引な誘い、夫の病死、義理の息子が言い寄ったことなどで、世をはかなんで出家しました。久々に会ってみるとやっぱり魅力的。しかし、仏道修行専一の尼となられては手出しができませんから、未練がましく「退場」となります。

 源氏は多くの女君と関係を持ちますが、末摘花、空蝉をはじめ身寄りのない女性は、捨てずにに面倒をみるという優しさがあります。このふたりの他にも

源氏のお陰を被って暮らしている女君たちがまだまだたくさんあった。
そういう女君たちのどの御方にも、それぞれ相応に源氏は思いをかけている。もとより源氏は、我こそはと高飛車に構えていてもよさそうな高貴の身分なのではあるが、けっしてそのように傲慢にあしらうというようなことはなかった。ただ、住んでいる所柄によって、また相手の女の身の程に応じて、分け隔てなく優しくもてなすので、そればかりの情宜に縋って、多くの女君たちは、年月を送っているのであった。

財力のある源氏だからできるのでしょうが、「捨て」ずに面倒をみているのです。「それぞれ相応に源氏は思いをかけている」という源氏の多情のなせるわざでしょう。源氏という人は、相当の色好みですが、こういう事はきっちりしているようです。

 宮中行事である「男踏歌」が六条院でも催され、玉鬘、明石の姫君、紫上がうち揃って見物します。夜が更けて、月光の中

見物の女君たちは、誰も誰もいずれ劣らぬ美しい色合いの袖口を、御簾の下から押し出して見せている、そのこぼれ出た色合いのうるさいまでの華々しさ、またその色の取り合わせなども、折からの曙の空に、春の錦が裁ち出されて立ち出た霞のうちかと思うような景色である。まことに不可思議に心の満たされるような見ものであった。 

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