BSシネマ モンテ・ウォルシュ(1970米) [日記(2013)]
この映画が公開された1970年といえば、アメリカン・ニューシネマ全盛の頃です。1969年の『ワイルド・バンチ』は最後の西部劇と言われ、西部劇に引導を渡したと言われています。この『モンテ・ウォルシュ』は、西部に鉄道が走り、牧場に東部資本が進出しカウボーイが失業するという時代の老カウボーイを主人公に、西部劇の凋落を、身をもって語った描いた「西部劇」です。そういう意味では、『ワイルド・バンチ』とは別の形で西部劇に引導を渡す映画かも知れません。アメリカン・ニューシネマの西部劇です。
老カウボーイを演じるのが、リー・マービンとジャック・パランス。当時、それぞれ46歳と51歳ですから、老カウボーイというには少し可愛そうです。19世紀の平均寿命(知りませんが)を考えると老境かもしれません。
前半は、モンテ(リー・マービン)とチェット(ジャック・パランス)が仕事にありついた牧場で、昔ながらの馬や牛を追う仕事の日々がゆったりと描かれます。カウボーイが馬を追う勇壮なシーンがもありますが、...。物語の予兆の如く、北軍の兵士であったことが自慢の老人は、馬で突撃して自爆するように死に、モンテは、酒場で馴染みの娼婦マルティーン(ジャンヌ・モロー)と一夜をともにしたり、事件らしい事件は起きません。これ西部劇?と思いますが、この起伏に乏しい時間を、リー・マービン、ジャック・パランスの演技で引っ張ってゆきます。
こういう生活も長くは続かず、カウボーイ仲間のショーティ(ミッチ・ライアン)等3人がリストラの憂き目に会います。牧場に東部資本が入り、合理化かレイオフですね。これついこの間までの何処かの国の話しです。
こういう場合普通、年寄りから先に解雇されるのでしょうが、牧童頭(マネージャー)は、転職可能な?若い3人を解雇します(これも伏線です)。年長のモンテやチェットを解雇すれば、たちまち路頭に迷うという配慮でしょう。去ってゆく仲間に、モンテとチェットは餞別を贈るのですが、西部劇というより、サラリーマンのリストラ物語です。
このエピソードも、古きよき時代への郷愁を描いているわけです。
ここからがこの映画のクライマックスです。
チェットはカウボーイに見切りをつけ、かねてから親しかった町の金物屋の女主人と結婚し、牧場は閉鎖され、マルティーンは不景気になった町を去ってゆきます。客の絶えたガランとした酒場の描写は、牧場とカウボーイによって支えられた町の衰退、西部の衰退です。
チェットはモンテに“この辺りが潮時だ”と転職を勧めますが、モンテは“カウボーイをやるしか能がない”と断ります。チェットの結婚式の帰り、飲んだくれたモンテは、ショーティが馴らそうとして果たせなかった馬に出会います。牧場が潰れて、ショー用に売られたようです。モンテはこの馬に乗り、何度も振り落とされながらついには乗りこなしてしまいます。これを見ていた馬の持ち主は、モンテの乗馬術に惚れ込み、高給でショーへの出演を持ちかけますが、モンテは断ります。
このエピソードは、「ワイルド・ウエスト・ショー」に身を投じた西部のガンマンを描いた『オーシャン・オブ・ファイヤー』を連想させます。この時代、ショーとなるほどに「西部」は郷愁となっていたわけです。
カウボーイをクビになったショーティは強盗に落ちぶれ、チェットの金物店に押し入ってチェットを撃ち殺してしまいます。モンテは、親友チェットの仇討ちのためにかつての同僚ショーティを殺し、“リストラ”の産んだ悲劇が描かれます。
モンテは、かつて馴染んだ娼婦マルティーンが死の床にあることを聞き、駆けつけます。モンテ始めカウボーイを手玉に取ったマルティーンは亡くなり、またひとつ「西部」が死にます。
非常に地味な映画です。西部劇だと思ってみると「これ何だ?」となりますが、「西部の落日」という視点で見るとなかなかの「名画」です。リー・マーヴィン、ジャック・パランス、ジャンヌ・モローと往年?の名優を起用して、西部の落日を描いたところが気が利いています。
リー・マーヴィンは、酔っぱらいのガンマンを演じてアカデミー主演男優賞を獲った西部劇『キャット・バルー』が有名ですが、落日のカウボーイの本作も好演しています。アーネスト・ボーグナインと共演した『北国の帝王』もいいです。『キャット・バルー』はウン十年ぶりに見てみようかと思います。
お薦めです。DVDにもなっていないようですから、この次NHK/BS で放映されたら是非御覧ください。
監督:ウィリアム・A・フレイカー
出演: リー・マーヴィン ジャック・パランス ジャンヌ・モロー
タグ:BSシネマ
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